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第34話*天狐てんてこまい*

最近の狐は機嫌がよかった。寝所にくるトキワの表情が柔らかくなったのだ。 贄嫁の真実を知り、生き残った人を逃がし、そしてこの悪習が 狐のものではないと誤解や不安感がなくなり、狐に対する緊張感が解きほぐされたのだ。 「トキワの目を見ながら呑む酒の味は素晴らしい」  そう言われると恥ずかしそうにトキワが微笑む。 『ああなんて素晴らしい時間だ』  出来る事ならトキワに触れたい。横に並んでほしい。寝所を共にして欲しい。 ・・しかしそれはトキワに全て拒絶されていること。 人の子がもろいとも思わず、恐怖心を植え付けた。 今度同じ轍を踏んだら二度と顔を見せてくれないだろう。いや、屋敷を出ていってしまうかもしれん。今はあの笑顔が見られるだけでも 良しとせねば・・ 良しとせねば・・ そのような日が来るのか? トキワは人の子だ。わずかしか生がない。俺のように二千年も生きるわけがない。 あの艶やかな黒髪に触れたい。あの細い指で俺に触れて欲しい。どうすればよいのだ? 人の子の扱い方なぞ、まるで知らんのだぞ?

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