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第46話*トキワの最後*
「ふっ・うっ・うっ・・」
「どうしたトキワ目が覚めたのか?泣くな。もう目が腫れてきている」
「お・やかた・さま」
「どうした?」
俺は手を首に回しお館様に抱きついた。
「トキワ?」
「おやかたさま・・トキワをあげます・・」
涙を伝わせながら震えた声で話す。
「ん。どういうことだ?」
「贄嫁のトキワはいなくなりました・・そして下の集落のトキワも・・
もうトキワという人間はいない・・」
狐はそっとトキワを抱きしめて、
「ではトキワ。その名をもらおう。その名を心に留めておくのは俺だけでいい」
「いまからお前の名はすみれ。すみれと名のれ。お前の瞳の色だ、お前しか持っていないものだ」
「すみれ・・」
遠くでお館様の声が聞こえたような気がして、俺の意識はまた薄れて落ちていった。
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