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第47話*すみれ*
「トキワ」は居なくなった。
しかし「すみれ」はまだ自分を認識できていなかった。
自分は名前のない何者でもないと、意識もあいまいで赤子のようだった。
常に狐を探し、着物をつかんでいた。食事も胡坐の中で薬湯を飲むだけですぐに目を閉じた。
寝る時は狐に抱きついて眠った。そして口吸いをせがむようになった。しかし狐は口吸いを
せず、鳥のくちばしのように唇を軽く合わせるだけにした。数回するとすみれが落ち着く。
もし何かすみれの体に触れたら、意識がはっきり戻った時
また距離を置かれるのは耐えられないからだ。
そのためいつも狐は呪文を唱えていた。
「耐えろ。俺の理性!」
すみれのそのような状態はひとつ季節が変わるくらいまで続いた。
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