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第4話

 月の夜を静かに潜って寝所にあがる。初めての晩と同じように背中を向けた姿を何も言わずに後ろから抱いた。 「遅くなったけれど、その分だけ私の想いは深くなっています。私も全てをお見せしますから、あなたも私にだけは遠慮をしないでください」  こく、と小さく頷かれそれだけで胸が弾んだ。身体が冷え切っていないことを確かめて帯を解く。真っ白な単衣から僅かに桃色の滲んだ肌が零れた。その花が綻ぶようにして現れた肌に口をつける。首筋の香りを確かめ、撫でおろした手のひらで両方の粒を転がした。 「……っふ……」  耳元でなければ聞き逃しそうなほどのあえかな声が漏れる。もう少しつよく擦ってから摘むと赤色を濃くして膨らんだ。 「かわいらしい」  感嘆を漏らしたというのに嘲りに感じたのか、妻は身を捩って逃げ出そうとする。身体をずらして横たえると、逃げ出してしまわないように体の下に敷きこんだ。 「褒めているのです。あなたが可愛らしくて愛おしく感じていると言っているのです」  唇を重ねると僅かに震えたけれど、重なりを深めていく間に強ばりを解く。 「ずっと昔から綺麗な人だと思っていましたよ。年上のあなたからしたら私たちは子供に見えてつまらないだろうと声を掛けたことはありませんでしたが、遠くから感じるあなたの視線に気づくと少し嬉しかった」  嫌われていると思っていても関心を集めるのは嫌いではない。細面であまり肉付きのよくない橘さまのことを頼りないと思う公達は多かったが、美しい人は美しいだけでいいと思っていた。 「声も聞かせてください」  赤い膨らみに唇を寄せると衣擦れの音が大きく響く。舌先で触れたとき「あ」と声が聞こえてきてたまらなくなったその気持ちのままに軽く噛んだ。 「ああ……いやっ……そんな…………」  僅かに浮き上がった背に手を差し入れる。胸を突き出させた格好のままで凝った粒を強く吸い上げた。 「ふ、う……んっ……ああ、あ……あつい……身体が熱い……」  腰まで浮き上がったせいで単衣は肌を滑り落ち、熱いと訴えた通りに反りあがったものが腹の下で揺れている様が露わになる。ほっそりとしたそれの先端には透き通った滴が浮かんでいた。 「楽にしておいで。悪いようにはしないから」  背中をそっと下ろすと、代わりにつま先までまっすぐに伸ばされた脚を持ち上げる。膝に当てた手のところから脚が折れ、丸い尻のラインが現れた。その中心にある密やかな蕾が誘うようにひくりと震える。 「ぃや……いや……」 「女房はあれをどこへ用意してくれましたか」  発情しない妻を傷つけずに契るための薬を頼んでいた。いやいやと言いながらも視線は薬に運ばれる。皿に入ったものを引き寄せて指に絡めとる。緊張で顔を白くしている妻の蕾に触れる前に、透明な滴が糸となって垂れたその場所を手で擦った。 「ああ……っう、う……あ、いや……」  妻は袖を引き寄せて顔を覆ったが、手の中のものは固く私の手を押し返すようにおおきく育っている。悪くない反応だと安心し、濡れた指を蕾に押し当てた。 「かわいいね。私を受け入れてくれるだろうか」  指先で蕾を辿って襞を広げるようになぞる。僅かずつ緩みを促すようにたどり、同時に手の中のものを慰める。 「あ、あ……」  小さな声が聞こえてきて同時に先端につゆが浮かぶ。もどかしいのは私も同じだった。月がゆっくりと動いていく。高く昇り切るまでの時を使って私の指が自由に出入りできるまでその場所を柔らかくした。 「力を抜いていて、ね」  泣きぬれている妻に声をかけるとはちきれんばかりになっている私の男を擦り付ける。長いこと指を含んでいた蕾はうながすまでもなく口をあけ、先端を含んだ。 「あ――……」  思わず声をあげるほどに良かった。そのまま腰を押し出すと吸い付くような柔軟さで私を熱く包んだ。 「ああ、ぅ……ふぅ……ふ……ん」  妻も顔を歪めているが声が甘く、身体と同じように私を受け入れてくれている。一番深いところまで押し入って手を握ると、薄衣から覗く顔に思いの丈を囁いた。 「あなたをこんなにも愛おしく思う日が来ることはきっと私たちのどちらも思い及ばなかったでしょう。けれど今私たちは深く縁を繋いで正真正銘の夫婦となった。これからはもっとあなたのことを大切にしたいし、身体も愛しんでいくつもりです。あなたからも愛を返して下さることを夢に見て生きていきます」 「ひかる様……」  はらはらと散る涙は悲しみや辛い気持ちからでないと言葉にせずとも分かった。いま私たちは確かに心を交わしている。身体と同じように深く睦みあったのだ。 「どうか私の想いを感じてください」  私の動きにつれて妻の瞳から涙が落ちる。次第に紅色が濃くなる肌を愛しく思い揺らめきが大きくなった。 「あ、あ……熱い……あつい……」  決して否やをしているわけではなかった。あついあついと身を捩り始めた妻からは甘い香りが立ち上がってくる。それが香ではないと気づくころには繋がった場所から湿り気を帯びた音がたち、うち合わされた肌がしっとりと濡れる。 「発情しているのですか……?」 「ああ、ああ……あ、ぃやぁ……おかしくなる。もうおやめください……あ、んうぅ……あつい……あつ…………」  ああ、甘い。頭の中が焼けると言った中将の言葉が浮かぶ。息苦しいほどの香りであるのに、もっと欲しいと頭の奥から私自身が強く願っていた。もっと溺れて、もっと沈んで……もっともっと妻をこの身の内に取り込みたいと望む。  妻のほっそりとした茎からは撥ねるように白く濁った滴が飛んでいた。肌をしとどに濡らし、肌を桃色に染め、ああいやと鳴いている。 「私も堪えられない」  奥まった場所で濁りを放つ。動きを止めると妻のなかが吸い上げるような動きで私を包んだ。不思議なことに放ったところで終わりにはならなかった。滾ったままのそれを幾度も奥へ打ち付ける。すすり泣く妻はそれがあふれ出るくらいまで奥で飲んだ。熱がおさまるまでの間、何度でも。  御子が……との知らせに取るものも取りあえず妻の元へと向かった。発情期のある人は男でも子を授かるのだという。思いがけない知らせに驚きよりも満ち足りたあたたかな気持ちが湧いた。  これは愛だ。季節が廻れば私も父となる。ようやく打ち解け始めた妻とともに来たる日を待とう。  春風が届ける花びらに似た色に頬を染めた妻をそっと胸に抱いた。                                      了

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