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第3話
「兄弟となりますます光り輝く君よ……あの人とはうまくやれているのか?」
「さてどうだろう」
妻が私の腕の中で眠ったのはあの晩だけだった。もしやあの日契りを結ばなかったことがあの人を傷つけてしまったのだろうか。頑なになった姿は、昔と変わらない。形ばかりの婚姻が続けばいいと繰り返す人に打ち解けられないまま日々が過ぎていく。
「発情はどうすれば起こるものなのだろうか」
独り言のように呟けば、中将が扇の陰で口元を歪めて笑った。
「君ほどの人間のことだ。きっと興味を示すと思ったよ。私が駆けつけた時にはもう騒ぎは収まっていて残り香しかかげなかったが、あれは凄い。頭の中が熱くなって勝手に身体が反応をしだす。たまらなく危険な香りだった……兄弟でなければ私が欲しいくらいだったよ」
その方面では鍔迫り合いをしたり裏をかいたりと争ってきた間柄だったが、妻となった人のことを言われるのは腹が立った。
「君でもそう怖い顔をすることもあるのだな。まあまあ、私にも別のあてがあるのだから、あの人をどうこうしようなどと思ってはいないよ。そちらの方に聞いたところによれば、発情は年に三度か四度あるものらしい。時期がきて起こるものと、相手によって引き起こされるものとあるようだ。縁のある相手なら傍に寄られるだけで身体が作り替えられるようだと」
中将の言葉を聞いて、一層私の苛立ちは募った。
妻の相手は私ではない。そう言われているようなものだ。私が相手ならばあの婚姻の日に妻は発情していたはずだ。
ならば、妻の相手は最初の発情の時分に傍にいた人間ということになる。
「君という夫を得たのだからあの人もいずれまた発情するだろう」
中将はそう言ったが、私にはどうしてもそうとは思えなかった。
縁のある相手ではない。そのことが心にわだかまり、妻のところに通う足が遠のいていた。そのことを父君や中将に諫められ足を運ぶ。けれど発情しないうえに頑なな態度を崩そうとしない妻を見て、足を運ばなくなることの繰り返しだった。
妻の発情を促したものについてそれとなく探ってみたけれど、分からずじまいだ。本当に発情する人間なのか。左大臣家にうまくたばかられているのではないかという疑いすら抱き始めた。
「こういうことを兄弟である私から言うのもなんだけれど、発情を促すためにあの人を抱いてやったらいいんじゃないのか」
「発情しない身体で私を受け入れられるものだろうか」
「それはいかようにもやりようがあるだろう。あの人は発情した時のことが怖ろしいことのように記憶してしまっていて、どうにか発情を抑えている状態ではないだろうか。君がやさしくその心を開いてやれば、また発情するようになるかもしれない」
そう言われればそんな気がしてくる。あの晩わざと発情した時のことを聞いたのは私だ。そのせいで拒まれているということも大いに考えられた。
「明日伺うと文を書こう」
“その時こそはあなたにも素直に心を開いて欲しい”
そう願う歌を書きつけて贈った。
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