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第2話⑥
「城崎さんっ、カズさんっ!」
店に着いて、挨拶するより先に開口一番2人の名前を呼ぶ。
「いらっしゃい」
「うるさいよ?」
カズさんがいつもの笑顔で迎えてくれる。
城崎さんはカウンター席でハーブティを飲んでおり、俺を横目で見て迷惑そうな顔をしているが気にしない。
「今日テスト返却されて、1番心配だった数学が平均点以上とれてて、もちろんその他の教科も今までで1番といってもいい出来で…本当にありがとうございましたっ!」
やや早口でテストの結果を伝え、2人に頭を下げる。
「おーよかったなー、がんばったんだなぁ」
カズさんからお褒めの言葉をもらい、へへへ、と顔が緩んでしまう。
だが、不安なのはもう1人のほうだ。
「城崎さん、これ…」
鞄の中から今日返却されたばかりのテスト用紙を取り出し、城崎さんに差し出す。
城崎さんは落ち着きなよ、と呆れながらも受け取り1枚1枚点数を確認していく。
城崎さんの隣に座り、緊張しながら大先生の反応を待つ。
…何を言われるんだろうか?
平均点以上はあるから、あの罰ゲーム?とやらは免れるよな?
一通り目を通してパサリ、とテストの束をテーブルに置くと城崎さんが顔を上げる。
きたっ。
「これが1番の出来なの?大体数学もあれだけやったんだからもうちょっととれるでしょ。ここ、やったのに間違えてるし。」
「うぐっ」
い、いわれると思った…
思っていた通りの辛口評価が胸にグサリと突き刺さる。
そうなんだよな…
今回も個人的には1番できたんだけど、ここは解けただろって後から思う間違いもあって…
でもさ、おバカなりに頑張ったんだしちょっとくらい褒めてくれてもいいと思わない?
心の中で愚痴をこぼしながら、くそぅとカズさんがサービスで出してくれたチョコレートケーキを頬張る。
「まぁでも…」
「?」
3口目のケーキを口内へ入れようとした時、城崎さんの手が俺の頭をクシャクシャと撫でた。
「淳にしては、頑張ったんじゃない?」
「…っ」
驚いて振り返ると、城崎さんは悪戯っぽく笑っていた。
「…は、い…。」
見たことのない表情に見とれ、されるがままになる。暖かく、思いの外優しい手つきに安心する。
城崎さんはそのまま何事もなかったかのように立ち上がり、ピアノの方へ向かっていった。
「お前達、大分仲良くなったみたいだな」
「どうですかね…ははは…」
まだ頭を撫でられた時の感触が残っており、城崎さんの表情が頭から離れない。
カズさんへの返事は曖昧になっていた。
…初めて名前で呼ばれた。
あんな顔もするのか…
ピアノの音色がハーブティの香りと溶け込んでいく。
…トクントクン
心臓の音が少し速い。
俺はその音に気づかないふりをした。
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