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第2話⑤

「…ぷっくく…あはははははっ!!」 「!!??」 どれくらいそうしていたのか、やがて空気を壊すかのように城崎さんが笑い出した。 切ない顔とは一変し、いつぞやのように腹をかかえて笑っている城崎さんを見て我に返る。 乙女のようにドキドキしていた自分が恥ずかしくなってきて思わず俯く。 「俺に惚れちゃった?」 「まっまさか!」 からかうように声を掛けてくる城崎さんを振り切り、ズカズカと机に戻ってシフォンケーキを貪り食う。 ヤケになっている俺を見て、城崎さんはまだ面白いのかニヤニヤとしている。 「…ちょっと、もういいんじゃないでしょうか…。」 「気にしないで食べなよ。」 睨みつける俺に対し、城崎さんは平然と紅茶を啜っている。 くそぅ。 腹立つな。 真剣に考えていた俺の時間を返せ。 至福とはいえないおやつの時間を終え、勉強を再開する。 ちょっとムカついていたが、問題を解くことに集中するとあっという間に時が過ぎ、時刻は18時を回るというところでその日の勉強会は終わりとなった。 「今日はありがとうございました。なにとぞ、明日からもよろしくお願いします…」 「あーはいはい。」 深々とお辞儀をし、明日の予約をこぎつける。 じゃぁね、サボらないでよと歩き出した城崎さんを見送っていると「あ」と声を発し、立ち止まってくるりと振り返った。 「あのさ、連絡先教えておいてくれない?」 「連絡先、ですか?」 城崎さんから連絡先を聞かれたことが意外で、聞き返してしまう。 「待ち合わせが面倒でしょ。明日からは、連絡してその時間にそっちへ行くから。」 「あっ、分かりました!」 お互い連絡先を知らなかったので、今日はカズさんから連絡をもらってMILKEYで待ち合わせをしてから家へ向かったのだった。 城崎さんと俺の家はそう離れてはいないため、店で待ち合わせするのと家へ直接行くのとどちらが効率良いかと考えたら一目瞭然だ。 カズさんに連絡係をお願いしてしまうのも申し訳ない。 ポケットからスマートフォンを取り出し、連絡先を交換する。 画面に"城崎彼方"と名前が表示されるのを確認して今度こそまた明日、と別れた。 晩御飯を食べ終え、明日の学校の準備を整えているとピロリンと携帯が鳴った。 携帯を確認すると城崎さんからメールが来ていた。 明日のことだろうかと開くと、 『今日解いたところ明日テストするから』 という鬼のメッセージだった。 動物が青ざめ土下座をしているスタンプを押し、スマートフォンをベッドに投げ捨てた。 **** 次の日からも城崎さんは変わらずのスパルタだった。 メインで教えてもらっていたのは数学だったが合間に他の教科もみてもらったりしていた。 さすが天才というべきか、城崎さんは他の教科に関してもぬかりはなかった。 「できましたっ!」 「じゃ、あと2問。」 「鬼っ!!」 城崎さんとの勉強会は最初こそ緊張していたものの、会話の中で少しずつ軽口を叩けるようになっていった。 … …… そして迎えた試験初日。 城崎さんに教わった解き方のコツや注意されたことを思い出しながら深呼吸する。 よし、やるぞ! はじめ、という掛け声と共に用紙を表に向け問題を解き始める。 途中、よく分からない問題もあったが焦らず落ちついて解いていく。 ケアレスミスのないよう見直しを徹底する。 試験は数日に渡って行われ、手応えからいうと完璧ではないが、全ての科目の試験が終了した。 ふぅと一息ついたのも束の間。 テストが返ってくるまでの間、結果が気になり落ち着かなかった。 城崎さんには平均点以下だった時には何をしてもらおうか、とあの黒い笑みを携えながら言われた。 テストのお疲れ会をしようと集まった稜様には不思議なものを見るような目で見られ、祐介にはお前落ち着けよとバシバシ背中を叩かれた。 お前もなっ! 「そしたら、この間のテストを返却するぞー」 先生の口から待ちに待った言葉が聞けたのは、試験から1週間後のことだった。 頼むぞ。 頼む頼むっ。 机の上で手を組み、祈るような姿勢で名前が呼ばれるのを待つ。 …。 「山本ー」 呼ばれたっ。 点数が見えないよう二つ折りにされたテスト用紙を受け取る。 自席に戻り、紙の両端を少し開いて覗くように恐る恐る点数を確認する。

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