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プロローグ
※ ※ ※
「ふっふっふっ……とうとう、買えた。この日をどれだけ待ちわびたか……これで、俺も可愛い女の子達からモテモテだ!!」
深夜のゲーム売り場____。
買いたくて、買いたくて――勧誘がひっきりなしだった大学の運動サークルにも入らずにバイトをいくつか掛け持ちしてまで購入するのを待ちわびていたゲームのパッケージを手にしながら、俺こと只野 勝 (ただの まさる )は意識しないうちに、ついつい独り言を言ってしまってた。
深夜だから客はそれほどいないだろう、と油断したのが悪かった。一人だけ、可愛らしい格好をした女の子がいて此方を怪訝そうにジロリと睨み付けてきたのだ。
(うわっ……何この男、きもい……)
明らかに、そう言いたげなその女の子の様子を見て恐縮してしまう俺____。
小学生から高校生までずっと運動部に所属していて筋肉もそれなりについている割に、内面は繊細な俺はその女の子から突き刺さる鋭い視線に恐縮しまくっていた。
「…………」
しかし、そんな俺などどうでもいいといわんばかりに、その場から無言でそそくさと去っていった。
じろじろと見るのは失礼かと思ってチラッとしか見ていなかったが、彼女が手にしていたのは巷で大人気の《ダンジョンウォーカー》というDAIV機能搭載のゲームパッケージだった。
――ということは、彼女もこれから《DAIV休暇》に入るらしい。
DAIV機能とは、簡単にいうと好きなゲーム内に自分の意識を意図的に飛び込ませること。要は、自分の選んだゲーム内で好きなように行動できるということだ。
DAIV休暇とは、簡単にいうとDAIV機能の恩恵を受けている間は意識は眠りについているような状態となっているため日常の行動が出来ない。そのために、取る長期間の休暇のことだ。
俺が暮らしている世界には、一昔前まではあった【春休み】、【夏休み】、【冬休み】は存在しない。その代わり、政府は6才以上65才未満の国民に対してDAIV休暇を取ることを許可しているのだ。ただ、子供の場合には制限があるが__そこら辺は親が責任を持って面倒を見ろ、とのことなのだろう。
とにかく、俺は可愛い女の子キャラクター達からモテモテになりたいがゆえに、この《☆セレスティア物語☆》を買ったのだ。
セレスティアという国の王子である主人公(俺)が、周りに取り巻く女の子達とイチャイチャするというこのゲームは正に今の俺の目的にうってつけだった。ネットや大学内で大人気のダンジョン内を冒険するという《ダンジョン☆ウォーカー》というゲームも僅かに気にはなったものの、その気持ちを強引に振り払ってルンルン気分でレジに向かって歩いて行くのだった。
※ ※ ※
「や、やあ……只野くん__こんな場所で会うなんて……ぐ、偶然だね」
「えっ……と____」
ワクワクした気分で軽快な足取りだったのは、レジに向かっていくまでだった。
ぎこちないながらも満面の笑みを浮かべている眼鏡をかけてる店員の男は、俺の知り合いで――尚且つ、極力関わりたくない奴だった。以前、友人からちらりと聞いたのだけれど俺に対してストーカー行為をしているのではないかという疑惑の人物で大学でも何度か講義を共にしている【辺田 那津男 (へんだ なつお) 】なのだ。
明らかに嫌悪感をあらわにして眉をひそめたものの、目の前にいる店員の男は一向に俺の気持ちに気付く素振りさえ見せない。
「こ、これ――このゲームって…………、」
「はあ?何なんだよ、いきなり――ってかさ、さっさと会計してくれよ。俺はこれからこのゲームでDAIVする予定なんだよ!!」
「う、ううん……他の人たちはDAIVするのは《ダンジョン☆ウォーカー》が主なのに、きみは……《☆セレスティア物語☆》を選んだのか……って思ってさ。でも、きみのそういう……面白いところも大好きだよ?あ、お代は__18789円になります」
地味男(俺がつけた奴のあだ名)は、店内に誰もおらず他の客も満足にいないこの状況をよしとしたのか、困惑する俺の手をぎゅっと握るというセクハラ行為をしてきた。これが女の子であれば、叫べば大事になるだろうがそんな恥ずかしいことをするのはどうしても嫌だった。
そして、その辺田の言葉を聞いてからイライラが絶好調に達したのと早く帰ってゲーム内にDAIVして今の出来事を忘れたいという気持ちが最高潮に達したため、俺は半ばレジカウンターに代金を叩きつけるようにして支払うと脱兎の如くゲーム売り場を去って行く。
※ ※ ※
所かわり、ここはマンション____。
「あーあ、嫌なこともあったけど……そんなことは忘れて――ゲーム、ゲームっと……!!」
マンションに帰ってきた俺は、ルンルン気分になりながら【DAIV】するための準備をする。そうはいっても普段通りに飯を食って、風呂に入って__そして、国から配布される【DAIVレンズ】を両目に装置してから専用の大型カプセルに入り込み仰向けになれば準備完了だ。
ちなみに、大型カプセルには殺菌と洗浄機能もあるため【DAIV中】でも風呂に入る必要もない。
【DAIV休暇】が終わりに近づいてくると、強制的に目にはめた【DAIVレンズ】が警告を発して起こしてくれるという便利な仕様になっているので【DAIV中毒】に陥ることも、ほとんどない。
(さて……いざ、☆セレスティア物語☆の中へ……DAIV――!!)
カチッと、大型カプセルの外側にある窪みにゲームのデータを圧縮した薄型カセットを嵌め込みルンルン気分のまま内部に仰向けになると、そのまま期待を胸に両目を閉じるのだった。
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