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ここにきて厄介なバグに遭遇しただって!?

______ ______ 【ダンジョン第5層】 (ああ、まただ………俺達は、また此処に来てじった____) 俺達は、その看板を何度目の当たりにしたことか____。 あまりにも絶望的な今の状態に、俺は――いや 俺だけではなく、あの生意気でついさっきまで意気揚々とダンジョンを進んでやると意気込んでいたアレスでさえ、口をつぐみ呆然と案内看板を穴が開く程に凝視してしまっている。 (同じ場所を、ぐるぐると繰り返し回り続けてる――何て厄介なバグなんだ……よりにもよって、慣れ親しんだ王宮じゃなく、こんな洞窟内で起こるなんて……っ____) いくつか存在するであろうバグの内容のうち《キャラクターの名前・性別・性格が変わる》――あるいは《ゲーム内の建物の位置が変わる》《違うゲームの建物やキャラクターが出現する》といった良くも悪くも分かりやすすぎる内容に対しては驚きはするものの、それでも厄介だと感じる気持ちは少なかった。 だが、今回のバグ内容は明らかに今までのものと比べて質が悪い。腹立たしいことに、そうと思わざるを得ない理由が何個かある。 まず、今までのように《王宮内部》で起きたバグではないということ。   そして、俺自身がリアル(いわゆる現実世界)でダンジョンウォーカーに興味がさほどなくあまりゲーム仕様を今いち理解しきれていないということ___。 更に、リアルでダンジョンウォーカーおたくだと陰口を叩かれていた【辺田 那津男】が姿を消してしまい、おそらく《アウター》状態に陥ってしまっていることが挙げられる。 《アウター》とは、DAIVしている最中に外部の者によって刺激を与えられたことで強制的に仮○状態に似たケースに陥ってしまうことだ。 そうなると、強制的にスリープ状態になってしまい、残酷なことに意識は残っているが自分の意思でゲームを行うのは一切不可能になってしまう。 もちろん、このことは《DAIV》の説明書に書かれているし、ゲームのパッケージにも警告されている。 警告を聞かずにルールを破る者が続出したのがやがて社会現象となり、破った輩が刑罰で厳しく処されるくらいには【DAIVしてない外部の者がDAIVしている者のカプセルに強い刺激や衝撃を与えてはいけない】ということが周知されている。 しかしながら、やはりというべきか【アウター犯罪】は完全になくなりはしない。 規制が緩かったDAIVカプセルが発売された直後という一時よりは幾らか減少してきてはいるものの、《金になる》《相手にいかがわしい気持ちを抱き発散する》《比較的楽に気に入らない者を始末できる》といった異常な欲望を持つ輩は、この世に蔓延り続けているからだ。 そんなことを考えていたら、ふいにあることに気が付いた。 (待てよ、あの時の那津男はまるで自分の身に危険が迫っているのが分かっていたような……そんな顔をしてた____つまり、那津男のDAIVカプセルに危害を加えたのは割と身近な奴ってことか____それなら…………) 頭の中に、一人の男の姿が思い浮かぶ。 リアルでの共通の知り合いで、同じ大学に通い、同じ講義を受けている奴で俺や那津男とは違う所謂【陽キャ】と呼ぶに相応しい男____《高遠 響》だ。 高遠は陽キャには違いないが、周りから常に不審と好奇の目を向けられていた。それは、どんなに容姿端麗な美女(時には美男)に告白されても、一貫して那津男に恋愛感情込みのアプローチをし続けていたせいだ。 時に、ストーカーじみた行為にまで及んでいたと風の噂で聞いた。あくまで風の噂に過ぎないのは、突如として高遠は大学を辞めて忽然と行方不明になったからだ。 教授や同じ講義を受けていた奴らに一言も告げることもなく、大学を去ってしまっていたが特にニュースで取り上げられた訳でもないから、どこかでひっそりと暮らしているのだろうが、あれだけ注目を浴びていたのに突如として姿を消したのは妙な感じがする。 (かなり無理やりな考え方だけど、それだったら――あの、どことなく諦めていたような那津男の様子も説明がつかない訳でもないか……) 「……い____おい……っ……こんな状況なのに何をボケっとしてんだよ!?しっかりしろっての……この、マヌケ……っ……!!」   急に生意気なアレスの怒号が聞こえてきて、慌てて顔を上げる。バグのせいでキャラクターの性格(のみならず性別もだ)が変わってしまったとはいえ、相変わらず口が悪い。まるで、若さ故に周りが見えていない学生のようだ。 だが、結果的に言えばアレスが怒鳴ってくれたおかげで危機を脱することができた。 ここにきて【同じ場所を繰り返し辿る】という分かりやすいが質の悪いものだけでなく、遂には俺達一行の《命》を脅かし兼ねない【バグ】が起こったからだ。 「……っ____こいつらだ……こいつらを倒さなければ、我々は永遠に洞窟に閉じ込められてしまうんだよ……っ…………」 アルトが、すぐ側でボソッと何事かを呟いたようだが、俺はそれどころではなかった。 確かに、俺はダンジョンウォーカーについては素人も同然だ。少なくとも、実際にクリアを目指してゲームを行った訳ではないのだから下手したら初心者よりも質が悪い。 だが、どのようなキャラクター(敵も含めて)が出現してくるのかくらいは嫌というほど聞いていた。とはいえ、那津男が俺に対してペラペラと話しまくっていた訳じゃない。 那津男に付きまとっていた、あの陽キャ野郎の【高遠 響】が、わざわざ俺の目に届くよう人目も気にせずに話しまくっていたのだ。 『ダンジョンウォーカーには敵も味方も含め和風な様相のキャラクターしか存在しない。何せ、それも魅力のうちのひとつだからね。いわゆるタイトル名と設定の差ってわけさ。分かりやすく言うなら、ギャップ萌えってところかな____那津男くん、つまらなそうにしてるけど、君にとってもボクの今の話しは学びになると思うよ?』 あいつは、確かにそう言っていた。 まるで、大学生だというのに男子小学生のようなキラキラした瞳で_____。 少なくとも、あの時の高遠は嘘を言っているようには見えなかった。 「くそっ……つまり、こいつもバグってことかよ」 その時、瞬時にして転がる、アルトの雇った兵士の亡骸が飛び込んできた。悲鳴をあげる暇さえなく、無惨にも真っ二つとなった体が何体も冷たい地面へと崩れ落ちていく。 【トロール】と【ゴブリン】___。 本来、ダンジョンウォーカー内にはいない筈の魔物によって。 覚悟を決めた俺は、今や物言えぬ兵士の懐から武器を拝借し、厭々ながらも仕方なく構えるのだった。

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