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devil1

 とある王国に、それはそれは目見麗しい王子がいました。彼はとても「外面」はよく、人々から好かれていましたが、いたずら好きな一面が幼い頃からありました。それでよく両親を困らせたこともあります。  ある日、彼は父親の書斎に勝手に入り、禁書の棚を覗いていました。そこには国の根幹に関わる秘密文書がずらりとあるのですが、王子はその中で一際怪しげな本に目をつけます。  手に取ってみると、複雑な紋章が描かれており、どこの言葉か分からない文字が並んでいました。その文字を指先で辿ると、浮き上がってきたように感じます。 「なんだ、これは。父上も面白そうなものを隠しているな」  そうひとりごちて、本を開こうと手をかけると、突然光を放ちながら自分で開いていくではありませんか。  驚いて取り落としたはずが、本はそのまま重力に逆らって浮き上がりました。そして、どこからか声が聞こえます。 ――お前、面白いやつだな。  どこか人をバカにした風の、ひどく嗄れた声でした。その姿が見えない声に対し、王子は恐れることなく毅然とした態度で応えます。 「誰だ、名を名乗れ」  それに対して、声は一つ笑い声を立てると、 ――名前?そんなもの、俺にはないよ。ただ、人は俺たちを恐れてこう呼ぶ。「悪魔」とね。  正体をあっさりと明かしました。王子はそれを聞くと、怖がるどころか新しいおもちゃを見つけたように瞳を輝かせます。そして、悪魔にこう尋ねました。 「お前が悪魔だという証拠を見せてくれないか?」  悪魔を試すつもりなのでしょう。悪魔が何をすればいいのかと聞き返すと、 「まずは手始めに、そこの暖炉を燃やしてくれ」  すると王子が言い終わる前に、暖炉の中で激しく火花が散りました。  それを目にして気をよくした王子が、次は悪魔にこう尋ねます。 「お前の力は、人に与えることはできるのか」 ――ああ、できる。それくらい簡単だ。だが、条件がある。 「その条件とはなんだ」  少し面倒そうに眉を潜めれば、悪魔は耳障りな笑い声を立てます。 ――お前のその美しさに覆われた、醜い心。それが十分に美味しく育った頃、その心ごと俺はお前の魂をもらう。 「つまり、お前は僕の命を引き換えにするのか」  悪魔らしい条件ですが、王子は面白くありません。力のために命を取られるとなると、存分に力を使い、いたずらをすることが出来なくなるからです。するとそんな王子の心を見抜いたように、悪魔は言いました。 ――いや、俺が命を食らうのは禁じられている。そんなことをすれば、たちまち神の怒りに触れる。俺がもらうのは、お前の心とお前が死んだあとの魂だ。お前が死ぬまでの間、俺はお前の傍で見守らせてもらう。  見守るのではなく、見張るの間違いではないかと思いつつ、王子はにんまりと笑いました。悪魔さえもころりと騙されそうな、見惚れるほど綺麗な笑顔です。 「その条件、のませてもらおう」  王子の返事を聞き届けると、悪魔は高笑いを響かせて、彼の二の腕に刻印を焼き付けました。  本に印された紋章と同じで、とても複雑なかたちをしていました。契約が成されたのです。それから、王子と悪魔の奇妙な関係が始まりました。

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