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第9話
「んっ……」
空斗は封印していた記憶が甦ってきたことによるショックで放心していたが、強い快感に
より現実に引き戻された。
拓也とのキスが続いていたのだ。
「ふぁっ………たっ、くや……もっ……やめっ……」
息も絶え絶えに空斗がキスの間にやっとの事でそう伝えるとようやく唇が離れた。
「俺はお前が戻ってくるまでやめない!何度だっていつまでだって続けてやる!俺のこの気持ちが空斗に届くまで!!」
拓也はこちらまで辛くなるような悲痛な顔で必死にそう告げると、再び唇を重ねようとした。
しかし、唇が重なることなく二人は抱き合っていた。
空斗が自ら拓也を抱きしめたからだ。
「……ありがとう、拓也。もう十分すぎるくらい伝わったよ。」
空斗は残酷な現実を受け止めた。
それは、こんなにも自分を大切に思ってくれる人がいることに気づいたから。
だから、乗り越えていけると思ったから。
それに、空斗のことを思ってくれた人がもう一人いたことを思い出した。
それは空斗の命を救ってくれた人。
海斗は最期の時、憎むでも恨むでもなく、空斗に………優しく笑っていた。
「!?空斗!?戻ってきたのか?」
「……うん。もう大丈夫。拓也のおかげだよ。僕も伝えなきゃね……拓也、好きだよ。」
拓也は今にも泣き出しそうな顔だったのだが、空斗のその言葉を聞いたときぱっと満開の笑顔になった。
そして、再び強く抱きしめた。
「もう一生、離さない。絶対、お前を守って幸せにしてやるからな。」
「僕も拓也のために生きていくよ。」
そう言って二人で幸せそうに微笑み合った。
そんな様子をいつの間にか咲いたカキツバタが見守っていたのだった。
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