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ルエル・ローランド
通報を受けた警察が現場に駆け付けると、殺人にある程度耐性がついているはずのベテランでさえ吐き気を催すほどの惨たらしい惨状の部屋が出迎えた。
そして、その血の海の中で顔色一つ変えず、平然と、あるいは食事を終えたばかりの肉食獣のように満足気にさえ見える表情で一人佇むルエル。その様子に警察は一瞬、これは本物の事件現場ではなく、まんまと彼の自作自演にはめられたのだと思いかけたほどだった。
しかし、無論これが単なる芝居ではないことは素人でも分かる。そして、明らかに返り血だと分かるものを大量に浴びているルエルを、即座に捉えて連行した。
警察は警戒を怠らなかったが、ルエルは意外なほどすんなりされるがままに連れられ、何の抵抗も弁解もしなかった。それどころか、一切口を利くこともなく、どんな脅しも揺さぶりも通用しなかったばかりか、手ひどい拷問にも呻き声一つ上げない。
もともと口が利けないという可能性に思い当った警察が、試しに紙とペンを用意して尋問すると、ルエルは紙にただ一言、整った文字でこれだけを書いた。
「僕がやりました」
それ以外は、動機はおろか、事件に関することは何一つ書かなかった。そもそも理由というものさえ存在しなかったのかもしれない。
この国では、未成年であろうとなかろうと殺人を犯した者の末路は決まっている。死刑だ。
どんな言い訳を並べ立てたところでそれは免れないと分かっていたために、ルエルは口を割らなかったのかもしれない。
何にせよ、ルエルは死刑を言い渡されても顔色一つ変えなかったので、警察には気味悪がられ、獄中の犯罪者たちには一目置かれた。
もっとも、ルエルは誰に話しかけられようとろくな反応も見せなかったので、好き好んでルエルに近付く者はいなかった。
一方で、ただでさえあのローランド家の息子ということで奇異な目で見られていたのが、ろくに風呂にも入れない環境下にも関わらず人目を引く容姿をしているせいか、あらゆる噂が独り歩きした。
実はルエルがローランド家の養子で、義理の父親に溺愛されるうちに男を覚えただとか、そのために町娘たちの好意に目もくれなかったのだとか。
実際のところ、ルエルの容姿はローランド夫妻にあまり似ていない。何より最も目を引く血のような紅の瞳など、夫妻のエメラルドグリーンや海の宝石のような美しい青とは対照的で、まるで魔物や悪魔の手先のようだ。
本当に血がつながっているか否かは別にしても、あの大人しかった少年が一家虐殺を犯したのだという事実は、十分に人々を驚かせ、震え上がらせた。
やはり人は見た目だけでは分からない。誰しも心の奥底に悪魔を飼っているのだと。
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