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第1話

 ごとん、となにか重たいものが落ちる音がして目が覚めた。  遮光カーテンを閉めきり薄暗い室内は、大まかな現在時刻の判別がつきづらい。  頭をあげて枕元に置いていたスマホを取りあげると、ロック画面のデジタル時計を睨みつけた。午後五時三十一分。昼頃ベッドに入ったことを考えればそろそろ起きたほうがいい。  うつ伏せの体を反転させ、そこで寝室の入り口に立ち尽くす人影を認めた。  誰何する間もなく侵入者は室内に踏み入ってきて、いまだシーツのうえに横たわる体に鼻息荒く覆い被さってきた。 「あんた誰だよ、なんでここで寝てんの? まさか浮気してやがったのかあいつ信じらんねえ!」  たたみかける男の顔は、リビングからの明かりが逆光になっているせいで判別できない。  男の手に胸ぐらをつかまれ、前後に揺さぶられながら受ける罵倒の内容を紐解いていった。  どうやら自分は家主の浮気相手と誤解されているようだ。  家主は男。そして自分に跨がり狼藉を働くやからもまた男。男×男。ホモだ。つまりゲイセクシュアルだ。マジか。  発覚した事実に茫然自失していると、逆上した男がさらにヒートアップして怒鳴り立ててきた。 「信じらんねえ! 信じらんねえ! あいつオレには浮気したら殺すだなんだと言っておいて、自分は部屋に浮気相手連れ込んでんのかよっ! 腹立つー!」  ガックンガックン揺さぶられて視界が回る。制止する隙もない。 「てめえオレの男に手ぇ出しやがってただで済むとは思ってねだろうなぁ!」  もうすでにぶん回されている。 「おいこらてめえ、黙ってねえであいつとどんなことしたのか吐きやがれ! つーかいつからだ? いつからデキてやがったんだよおめえらよ!」  いつからもなにも、自分はそんな誤解を受ける立場にない。そう怒鳴り返してやりたいものの、首元を締めつけられている状況ではろくな抵抗もできず、されるがまま辛抱する他なかった。そうして成り行きに身を投じていたのがまずかった。 「くそ……っ! 恋人を寝取られて黙ってられるかってんだよ。あいつはオレのもんだっ! 盗人野郎には痛い目みせてやらねえとなぁっ?」  男は下卑た声音でそう呟くと、鷲づかみにしていたパジャマの胸元を強引に開いた。  ブチブチとボタンが引きちぎられる悲痛な音を聞きながら、この後に待ち受けるであろう最悪の展開に息を呑んだ。

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