23 / 41
第5話・好きなところ
綾人を包み込むその腕は強い。
抱き締められていると、なぜかとても落ち着いた。
(誰?)
綾人は恐る恐る顔を上げると、そこには襟足まで満たない短い黒髪に一重の目。均衡のとれた凛々しい凌雅がいた。
(凌雅!?)
嘘だ。
これは有り得ない。
だって自分は嫌われてしまった。
だからいくら綾人が望んだとしても目の前に現れるわけがない。
綾人は自分の目を疑い、何度も瞬きを繰り返す。
これが幻覚だと自分に言い聞かすものの、腰に回された彼の腕が妙に現実味を帯びている。
綾人を背後から抱き締めるような格好でいる凌雅を、綾人はただ見つめ続けた。
「悪いが、これは俺の連れだ、返してもらう」
相変わらず強気な物言いをする凌雅はたとえ年上でも怯まない。
それは優柔不断の綾人が好きになった、自分にはない彼の一面だ。
しかし、相手の男はやはり年上ということもあり、余裕だ。
「返すも何も、こいつがホテルに行こうと俺を誘ったんだ。こいつは俺に抱かれたがってるんだよ」
「っつ……」
男の言葉に、綾人の身体が大きく震えた。
自分はまた、男と一緒にホテルに入るところを凌雅に見られてしまった。
自分の身体を包むこの腕はやがて消えていくことだろう。
綾人は唇を噛みしめ、俯 く。
けれども凌雅は綾人の考えているようには動かなかった。
綾人の身体に回っている腕に力が入る。
これには綾人もびっくりだ。
俯けた顔をふたたび上げると、口角を上げ、不敵に笑う彼がいた。
ともだちにシェアしよう!