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第5話・好きなところ

 綾人を包み込むその腕は強い。  抱き締められていると、なぜかとても落ち着いた。 (誰?)  綾人は恐る恐る顔を上げると、そこには襟足まで満たない短い黒髪に一重の目。均衡のとれた凛々しい凌雅がいた。 (凌雅!?)  嘘だ。  これは有り得ない。  だって自分は嫌われてしまった。  だからいくら綾人が望んだとしても目の前に現れるわけがない。  綾人は自分の目を疑い、何度も瞬きを繰り返す。  これが幻覚だと自分に言い聞かすものの、腰に回された彼の腕が妙に現実味を帯びている。  綾人を背後から抱き締めるような格好でいる凌雅を、綾人はただ見つめ続けた。 「悪いが、これは俺の連れだ、返してもらう」  相変わらず強気な物言いをする凌雅はたとえ年上でも怯まない。  それは優柔不断の綾人が好きになった、自分にはない彼の一面だ。  しかし、相手の男はやはり年上ということもあり、余裕だ。 「返すも何も、こいつがホテルに行こうと俺を誘ったんだ。こいつは俺に抱かれたがってるんだよ」 「っつ……」  男の言葉に、綾人の身体が大きく震えた。  自分はまた、男と一緒にホテルに入るところを凌雅に見られてしまった。  自分の身体を包むこの腕はやがて消えていくことだろう。  綾人は唇を噛みしめ、(うつむ)く。  けれども凌雅は綾人の考えているようには動かなかった。  綾人の身体に回っている腕に力が入る。  これには綾人もびっくりだ。  俯けた顔をふたたび上げると、口角を上げ、不敵に笑う彼がいた。

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