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epilog
たしかに、高校時代、凌雅と仲良くなった頃から、綾人は下心を隠して勉強という名目で頻繁に彼の家に遊びに行ったのを覚えている。
目元が凌雅とそっくりな威厳がある父親と、優しそうだけれど凜とした母親。
それが綾人が彼らに対する第一印象だった。
けれども凌雅の両親が自分のことを思ってくれていたというのは初耳だ。
なにせ凌雅の両親は滅多に家にはいなくて、あまり話したことがない。
果たして本当に自分は凌雅と一緒に住めるのだろうか。
「……信じられない」
どう考えても話がすんなりいきすぎだ。
自分はまだ夢を見ているのではないか。
綾人は力いっぱい頬を抓ると……。
「いひゃい」
頬に鈍痛がした。
おかげでもしかしたら、これは夢ではないのかもしれないと思いはじめる。
「何をしてるんだか……」
今まで頭を撫でていた彼の手が、綾人のひりつく頬を撫でる。
「だって、夢だったら嫌だから……違うのかな? 本当に夢じゃない?」
これがもし、夢ではないとしたら……。
自分は凌雅の隣にいることを許されたとしたら……。
目頭が熱を持ち、涙が込み上げてくる。
「そこで泣くのか……」
「だって……も、嬉しくて、夢みたいで……」
綾人はとうとう嗚咽を漏らし、泣いてしまう。
「凌雅、好き……」
「はいはい、俺も好きだよ」
綾人が凌雅にしがみつき泣けば、彼は綾人の背中を撫で、優しく宥める。
「凌雅、凌雅……」
綾人は広い背中に両腕を巻きつけ、ひたすら甘えた。
どんなに渇望しても味わうことがないと思っていた凌雅との生活が始まるのはもうまもなくのことだ。
―fin―
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