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第1話

よくある、ありふれた話。  俺、藤井毬也(フジイマリヤ)と日野碧生(ヒノアオイ)は、家が隣同士で同い年の幼馴染だ。  親同士が仲良しで、お互いの家でご飯を食べるとか泊まるとかは当たり前だった。  むしろ、『お互いの家』っていう感覚すらなく、どっちも自分の家のような。  まるで、大きな一つの家族だった。  一人っ子の碧生はずぅっと俺の傍から離れなくて、家でも学校でも一緒に居ない時間がなかったほど。  寝るときは手を繋いだり、お風呂では頭を洗ってあげたり。  同い年の姉、百合亜(ユリア)にでっかい姉づらされていたせいで、かわいい弟が出来たみたいで嬉しかった。  そんな生活が、当たり前だと思ってた。  なんとなく、ずーっと続くと思ってた。  でも、そんな時間は、『思春期』という三文字がガラガラと崩してしまった。  あっさりと、確実に。  イケメンと騒がれる顔と、無駄に伸びた高い身長。  ぜーんぶ親のおかげなのだが、その二つを兼ね揃えた俺は、一足先に恋愛に目覚めたかわいい女の子たちにキャーキャー騒がれる。  同じクラスで隣の席で、たまたまつるんだヤツらも同じようなステータスの持ち主だったから、並んで歩くだけで声をかけられたり、スマホのカメラをかまえられるほどの人気者になった。    すっかりちやほやされることに慣れてしまった俺は、そこそこの成績を保ちつつ、部活にも入らず毎日のように遊びまくっていた。  一方、碧生は元々の生真面目な性格のまま、思春期に突入。  顔は悪くないが、背は小さ目。  運動部と同じくらい厳しいと有名な吹奏楽部のフルートなんか担当しちゃいながらも、クラスでは本が友達の眼鏡男子。  何よりも地味で目立たず、人付き合いも苦手なようで、見かけるたびにいつも一人ぼっちだった。  成績はすこぶる良かったから、多分部活のあと塾とか通ってたんだろうな。  そんな正反対になってしまった中学時代が、近かった距離を大きく引き離した。  当たり前のこと。仕方のないことだ。  で、そのまんま高校へ突入。  中学からエスカレーター式ということもあって同じ高校に入学したのだが、その事実も廊下ですれ違うまで知らなかった。  思えば、ちゃんと話したのは、いつだろう。  遠い昔過ぎて、もう何も思い出せない。  2年生になって初めて同じクラスになったって、「おはよう」の挨拶さえしないのだから、おさななじみであったことさえもう過去のことなのかもしれない。  そのまま、変わらないと思っていた。  いや、変わらないはずだった。  …あの日、あの時までは。

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