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第6話→sideRT

ハルカが出ていったのは、7月末ごろの夏の盛りだったが、もうすでに、冬に差し掛かった時期になっていた。 N市にいるかもという噂を聞いてからは、頻繁にN市に通ったが、まったくハルカに関する手がかりは見つからなかった。 ハマの話だとN市にいる先輩は、松川さんという人で、俺らとはあまり接点がなかった人だという。 その頃にアタマだった五十嵐さんの下にいた人だったが、俺らは五十嵐派にも入らなかったのでまったく知り合いはいない。 五十嵐派は1世代前のトップの派閥で、その後進は俺らと対立していた派閥に入ったから当然だ。 もっと、情報網を作っておけば良かったな。 さすがに俺も3ヶ月すぎあたりで、身体に異常をきたしたので、ほぼ寝ない生活はやめたのだが。 ふーっと吐息を吐いて、ランチを食った店を出ようと席を立つ。 「おんやあ?峰じゃねー?!うわー、スーツとか着ちゃってんのかよー、意外に社会人してんじゃん」 軽い声音で声をかけられて、振り返るといかにもなドカチンの作業着をきた鳶職の男が俺の顔をのぞき込む。 「あァ、テメェ、…………将兵か?」 思わず俺は反射的に後ずさり身構えちまった。 卒業間際の抗争で派手に刺し違えた男は、そんなことはさっぱり忘れたとばかりの表情で、俺にニヤニヤと笑いかける。 「そうそ、俺も昼メシ食ってたとこー」 「キャハ、久しぶりだなァ、将兵。あれ以来か、腹の調子はどーよ?」 卒業式にはたしか、コイツも俺も病院に入院してたので、顔を見るのはのは本気で刺し違えて以来だ。 「たまーに、風通しいい時もあるかんじかなァ。まあ、テメェも肋骨イッてただろうし、あの後うちの士龍に踏まれたらしいしなァ。まあ、お互い様だろぉ」 ひっひっひーと人の悪い顔をして笑う。 お互い対抗派閥にはいたが、将兵は悪い奴じゃねーのは知っている。熱血タイプで、さっぱりとした感じのイイヤツある。 「まあな。士龍ちゃんは元気なの?」 「受験勉強は大変みてーだけど、まあ、俺らが呼べばすっ飛んできてくれるぜ」 将兵はふっと目を細めて嬉しそうな顔をする。 将兵のとこのアタマは仲間思いのアタマで、ハルカとはちょっと違ったタイプの奴だった。 「受験?アイツは進学するのか?あの留年野郎が」 俺の母校は、進学率0パーセントの底辺校である。 進学するような奴はいない。 「士龍の留年は出席日数たりねーだけだからなァ。医者になりてーらしいよ」 「…………はっ、頭大丈夫なのか?」 思わず呟くと、将兵は肩をそびやかして首を振った。 「あー、意外にスゲー秀才らしいぜ。なんか、全国の試験?で、20位だったとか言ってた。ノーアルパカは、つめをなくすだな!」 ちょい違う気もしたが、正しい答えは俺はしらない。 確かコイツは、士龍の下につく前は五十嵐一派にいたから、もしかしたら色々知っているかもしれない。 「なあ、N市でヤクザになったって言う五十嵐派の先輩のこと、オマエ知ってるか?」 「あーあー、知ってるぞ。松川さんだろ?そりゃ、ビックリだよなァ」 将兵は少し顔を曇らせて、すぐに声をひそめた。 「だ、よな。ヤクザになったとか、さ」 「まァ、だからさあ、あんな死に方したんだろうけどよ」 将兵は眉を寄せて、深く息を吐いた。 え、死に方?! 「なッ、死んだ、のか?」 「あれ、その話じゃねーの?先月かなァ、港の貨物置き場近くで水死体で揚げられたらしいぜ。五十嵐さんとか三河さんとかが話してた」 イヤな予感しかしない。 ハルカは松川さんとはさほど繋がりはなかったはずだが、もしかすると、ということもある。 「やべぇ、そろそろ俺は仕事もどらねーと。まあ、峰が、ちゃんと仕事してんのはビックリしたけどな。まあ、今度会ったらゆっくり話そうぜ」 たしかに、そろそろ昼休みが終わるタイミングか。 焦って駆け出していく将兵を見送って、また一つ手がかりをなくしたことに愕然としながら俺は店を後にした。

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