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第9話→sideH
連れてこられた事務所は、ここらへんを取り仕切っている久住組の一派の事務所で、黒服の男や見るからにヤバイ顔の男達がずらずらと出入りしている。
撃たれた太股は軽く紐で巻かれて簡単に止血はされたが、じんじんと痛みは増していく。
頭の中は真っ白で、ヤバイヤバイと警鐘のようなものがガンガンと鳴り響いている。
裏の仕事っていっても、ヤクザにまでに関わる気持ちはなかった。
俺は覚悟ってもんを、何もしてはきてなかったのだ。
「で、首謀者は誰で、合言葉とか割符はどうやって偽物を手配した?」
オッサンは、俺に蹴られた傷が痛むのかかなり不機嫌丸出しで俺に尋問する。
「知らねーよ。俺は、ただ先輩に頼まれただけっすから」
オッサンは俺の持ち物をさがすが、もしものことを考えて身元がわれそうなものは持ってこなかった。
「ふうん、カタギにしちゃあ、肝座りすぎだろ。ガキ。名前は?」
聞かれて、俺は思わず視線を逸らす。
これ以上は実家に迷惑はかけれない。
「……みね、はるか……」
咄嗟に思いついた偽名だ。実在しない名前だし身元がバレることはないだろう。
「ふうん。ハルカな。さっき渡したカバンの中身が何か知っているか?」
「だから、何もしらねーって言ってるだろ」
このまま埋められたりしても、多分誰にも気づかれない。
ライにだって、俺は何も言わずに出てきたし。あいつも呆れてんだろうな。
「威勢のいいガキだ。ハルカ。末端価格g、60000円のシャブ500gだ。計算できるか?」
聞かれたが、6万かける、500だと、えーと。
あ、そうだ、たしか松川さんは、3千万の仕事ってたっけ。
「えっと、3千万?!」
たしかに、500gとかあまり重くはなかったよな。
「それを返してもらえねーと、俺が組長に殺されるんだよ。わかるか?」
そりゃ。わからねーし、ご愁傷さまです。
「シャブが戻ってこねーなら、3千万、是が非でも、お前に返してもらわねーとな。親はいるんだろ?」
うちの実家にそんな金はない。
それにバカばっかやらかした俺に、そんな金を払ったりはしないだろう。
「わかるな?シャブが戻ってくりゃあ、こっちはいいんだ。首謀者、名前、言えるよな?お前だって、騙されたクチだろ?」
ぐいと顔を寄せられて、俺は恐怖に喉を鳴らした。
たしかに、騙された。騙されてると、最初から感じていた。少しは世話になったけど、元々ハメようとしてたのだろう。
隠し立てする義理はない。
「親はいねーんだ。頼まれたんは、1人しかしらねーよ。松川、松川浩樹、あと4人は今日あったばっかだったから…………」
「今日会ったばっかのヤツらから、こんなやべぇ仕事受けるとか、オマエホントに馬鹿なんだな。とりあえず、カバン取り返すまでの利息に、腎臓売っておこうか。オマエくらい若いのなら1500万くらいで取引出来るからな」
男はニヤッと笑って、俺の口と鼻を湿っぽいハンカチで覆った。
フワッと一瞬視界が揺らいで、瞼が重くなると完全にブラックアウトした。
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