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第10話→sideRT
将兵に指示されるがままに運転をして、連れていかれたのはちょっとアメリカンな雰囲気のステーキハウスで、俺は駐車場に車を止める。
「ステーキとか、まだ給料前だしそんなに金だせねーぞ」
まあ、奢るとは言ったけど。
五十嵐さんとかが来るとしたら、まあ、それなりに食べるだろうしな。
財布に50000くらい入れてたかな。
ついつい財布の中身が気になっちまう。
「あー。この店、五十嵐さんの店だから。あの人、ここのオーナーなんだよ。とりあえず、士龍にはメールしといたから」
からんからんと扉を開けるとカウベルが鳴る。
俺は、五十嵐さんとはあまり顔見知りじゃないんだよな。
つかつかと見知った様子で中に入る将兵の背中を追いながら、カウンターに並んで座る。
「おー、将兵。オマエ給料日でもねーのに、珍しいなぁ」
長身でガタイのいい男が馴染みの相手が来たのがわかり、厨房から顔を出す。
俺らが一年生の時の三年なんて、あまり記憶にないが、このひとは一目でわかるようなオーラを持っていた。
やはり、オーナーと呼ばれるだけあって、まだ20才そこそこだろうが変な貫禄があるようにも見える。
「ハハッ、そうっすね、今日は奢りなんすよ。あと、五十嵐さんに聞きたいことあってきたんですよ」
水を目の前に出してくれる五十嵐さんに、俺は軽く頭をさげる。
「こっちはセールスマンさん?車でも買うのかよ、将兵。悪いけど、聞かれても金はねえし、貸せないぞ」
俺が車のセールスってことをよく見抜けたもんだと思わず目を見張ったが、
「あ、お久しぶりっす。セールスの仕事はしてるっすけど…………一応、俺も東高にいました。五十嵐さんとこには入ってなかったすけど。……峰頼人っす」
「あーあー。えっと、峰な。あの小倉のとこのヤバイヤツって言われてたヤツか。普通のセールスマンじゃん。変な取り合わせだなァ、オマエら仲良かったっけな」
五十嵐さんに覚えてもらえてたのは、意外だったがヤバイヤツって、何だろうか。
そんな風に上からみられてたのか。ホントにヤバイってどういう意味だろうか。
「聞きたいことってのは、松川さんのことなんすけど」
将兵は物怖じしない口調でいきなり核心を聞く。
五十嵐さんは、眉を寄せて軽く周りを見回すと、
「コーキのこと?!・・・・・・そりゃあ、ちょっと客前でする話じゃねーな。個室に移れよ」
声を潜めてチラッと個室らしい扉に視線をやって、立ち上がれと顎先を上に向けた。
俺は立ち上がり、将兵の後について個室に向かった。
「で、小倉がコーキと一緒にいたかもしれないって?」
個室に入った五十嵐さんは俺らの前で、手馴れた仕草で分厚い肉を焼いて、ふうと息を吐き出す。
「噂でしかないんすけど…………」
「いや、2ヶ月くらい前に1度コーキがうちに小倉を連れて食いに来たことがあったからよ。そん時にちっと仕事世話してやってるみたいなことを言ってたからな」
俺は、思わずガタンと立ち上がろうと机に腕をつく。
いてもたってもいられなくなる。
「峰、落ち着け」
将兵は俺の肩に軽く腕をかける。
落ち着け?そんなの落ち着けるかって。
「松川さんが死んだのは、何でですか」
「酔って海に落ちたって話だけどよ、ちげーよ。アイツ、酒飲めるヤツじゃなかったしな。殺されてからアルコール打たれたか。まあ、噂じゃ久住組のシノギを横取りしたとか」
五十嵐さんは仕事中だろうに、飲まないと話せないと言ってビールを煽った。
このひとも、仲間には慕われているアタマだったのを覚えている。
「ハルカは…………ハルカはどうなったんだよ」
俺の頭にはそれしかなかった。
「小倉の噂はないし、死体とかが出たわけでもないなら、拉致られてるか、うまく逃亡したか」
五十嵐さんは、俺の取り乱しようを見てぽんと頭に手のひらを載せる。
「まあ、峰よ、ここで慌てても仕方ねーだろ。俺もダチから情報を集めてやるからさ」
器のでかさを感じるような声音で、五十嵐さんは請け負ってくれた。
「ショーちゃん、峰ちんがステーキ奢ってくれるってホント?!」
うきうきしたような能天気きわまりない声が聞こえて、ガラガラと個室の引き戸が開かれ、俺は半年以上ぶりに元同級生の長身で金髪イケメンの顔を拝むことになった。
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