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第56話→sideH
ライに連れてこられた五十嵐さんの店には、前に1度だけ松川さんにつれてきてもらったことがある。
まあ、詫びと礼行脚になるのは折り込み済だったが、なんだか拍子抜けするほど真壁の一派はこちらを恨んだりはしてないように見えた。
真壁を筆頭に幹部たちが、能天気で脳みそ筋肉なやつらだってのは知っていた。だから、卒業のギリギリまで手は出さなかったし、出すつもりもなかった。
「真壁、あの赤毛はこなかったのか?」
真壁が彼氏だって紹介した、赤い髪の富田の姿は見当たらない。真壁がいるところには、大体一緒にいたのに。
もしかしたら、別れたとかか?
「あー…………たけおは、外にいるよ。アイツ、ハルちゃんの顔はまだ見たくないらしい。わりぃな」
箸を咥えながら呟く真壁は、反面少し嬉しそうな表情をしている。
富田の反応が1番正しいのじゃねーかと思っている。
俺らが1番酷い目に合わせたのは、実は富田なのだというのも分かっている。
「…………だよな」
納得して、俺は出されたコーラを口にする。
「…………峰ちんはさ、メチャメチャ必死にボロボロになりながらハルちゃんを探してたんだ。だからさ、もう無茶なことしないでよ」
「分かってる」
実際、分かっている。
なんの手がかりもないとこから、俺の居場所を突き止めたのだ。
どうしようもないプライドで出ていってヘマこいた俺なんか捨てておけば良かったのに。
「あんなことをしたオマエにまで頭下げて探しにきたんだ。それくらい分かる」
「んー、まあ、あれはさ、俺もちょっとは引きずったし自暴自棄になったりしたけど、もうあんま気にしないでいーよ。ハルちゃんはさ、本当は俺のことが好きだったんだろ?」
図星だが、それは今言わなくてもいい話だろ。ホントに無神経な奴だ。
すっかり諦めた感情を蒸し返すなとにらみ返すと、真壁はポンと肩をたたいた。
「だから、それなら、俺も悪いからいい。そういうの知らずに、自慢しに行っちゃったわけだからさ」
知らないも何も言わなかったわけだし。だからといって、卑怯な手を使ってこいつを、手に入れようとした言い訳にはならない。
でも、そうだ。
「…………今は、ライが大事だ」
何もかもプライドすら投げ捨てて、俺を探しにきてくれた。
ヤクザに乗り込むとか普通は考えない。
「それ!!それ!ちゃんと、峰ちんに言ってあげんだぞ」
言わなきゃわかんねーんだからなと続けた真壁のデコを指で俺は弾いた。
言っていたら、変わっただろうか。
入学式のあの日。
屋上で1発KOを食らったあの日。
恋心を伝えていたら、俺と真壁の関係は変わっていただろうか。
馬鹿な考えだな。
全然、俺は成長してねえ。
「言うよ・・・・・・・・・そのうちな」
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