70 / 85
第70話→sideH
マンションに着いてからも、ライは無言で俺の腕をグイグイ引いていく。
怒っているのとはまた違う、どこか苛立ちを含んだ表情に俺は何も言えなくなっていた。
俺より少し低い身長だが、腕っ節もあったし俺とは違って頭が回るやつだったから、下のヤツらも俺よりもライを頼っていたように思う。
高校もライなら別のとこにいけたのに、なんで、離れなかったのか、ずっと不思議だった。
マンションに入って玄関で靴を脱ぐ。
まだ掴んだままのライの指先が肌にくい込んだままだ。
「をい、いーかげん、離せ。腕、いてえよ」
「……わりい」
「馬鹿力…………」
腕を離され箇所を見ると、軽く鬱血している。
力強すぎだろ。
「…………後悔してる。さっき、アイツについてけば良かった……」
ライの細い目がカッと見開かれた。
唇がわなわなと震えて、表情に怒りが垣間見れる。
あー、怒らせたなあと思うが、1度切った堰はとまらない。
ぶっ壊されたい。
ぶっ壊したい。
わけのわからない、被破壊願望。
何をどう言えば、ライの沸点に届くかは俺は知っていた。
「…………助けてなんてほしくなかった。何もわかんなくなっちまうくらいになれば……セックス三昧で幸せになれ…………ッグッ」
目の前が真っ暗になって、痛みが脳天に突き刺さり床に倒れる。
かはっかはっと咳き込み、見上げるとライは泣きながら俺の腹を殴りつける。
泣いてんなよ…………バカだな。
昔からずっと俺の後ばかり追ってきて、人生狂わせちまったのに、これ以上、オマエの負担になりたくねえよ。
だから、もう一度言う。
「…………助けてなんか、ほしくなかった」
ともだちにシェアしよう!