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第84話→sideRT
ハルカに着替えをさせてやり、うっとりしたような表情を浮かべているのを眺めてそっと背中を撫でて落ち着かせる。
あまりにハルカらしくなく、また可愛いすぎるだろう。多分、こんな顔を水上に毎回見せていたのだろうと思うと嫉妬心が湧き上がる。
「.....ライ.....かえ、りたい」
胸元に顔を埋めたまま告げるハルカに、俺は頷く。時間もかなり経っていて既に夜中である。
俺に全てを委ねているハルカは、庇護欲をそそる。いままでにない変貌で、多分ハルカ自身が拒否していたからだろう。
ハルカが何とか辛そうに立ち上がるのをチラ見して、
水上に渡されたトランクに金を詰めると中に小さなカギが入っているのがわかる。
札がついていて、首輪の鍵と書いてあった。
首輪をしていれば、理性をなくした俺が首を締めても大丈夫だろう。
少し安堵してトランクを手にすると、ハルカの腰に腕を回して支える。
「なんで、逃げ出してココに来たかちゃんと聞いてなかった」
「.....俺はもう普通じゃないし、オマエには荷物でしかないから.....。いっそいない方がいいと、考えた」
部屋を出たハルカは、まだぼんやりした表情のまま答えた。
「.....オマエにはカッコつけてたかったんだ。.....でも、結局は、もう、最悪なとこ.....見られたわけだし.....。オマエを拒否する理由はないな」
エレベーターを降りてビルの受付をみると警備員が眠たそうに立っていた。
裏口のような鉄の扉から外に出ると、殆ど人の行き来がないようだった。
歩く歩調を合わせながら、ハルカの顔を見上げる。
「ああ.....そうだ、からだ、平気か?」
「平気に見えるか」
「見えないけど」
そう伝えると、ハルカは全然辛いよと返す。
「.....あの時.........オマエだけが、見えてた」
よたよたと体をかばうように歩きながら、ハルカは静かにそう言うと深く息を吐き出す。
「でも、オマエが見えたから、俺は正気を無くさずにすんだ」
駐車場に着くと、車を探して俺はドアを開く。
俺だけにはなんとかそれ以上の無様を晒したくない一心だったのだと笑い、結局無様だけどさと自嘲を続けるハルカを助手席に載せる。
「まあ、でも、あそこで馬刺しはねえけどな.......」
「なんだ、聞いてたのかよ」
「しばらく馬刺しは食えなそう。笑っちまって腹が捩れそうだし」
車を出すと、ハルカは安心しきった表情で久しぶりに笑い声をあげた。
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