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第85話→sideRT
明け方だからか、道はとても空いていて来た時の半分しか時間は経ってない。
ハルカは、疲れているようにシートに身体を沈めているが、寝てはいないようだ。
「なあ、どうしてあそこの場所が分かった?」
GPSをつけていたとか言ったら引かれるだろうか。
まあ、また逃げられないだなんて確証はない。
「キャハ、そりゃあ愛の力」
「ハッ、ウソくせえ」
俺の軽口に眉を寄せて肩を聳やかすが、悟ったのかそれ以上は追求しないようである。
数時間前までハルカは、カタカタと恐怖に怯えていたのだが、あのビルを出たらかなり落ち着いたようだ。確かに人間以外に話の通じない相手に犯されるだなんて恐怖でしかない。
「なあ、ハルカ.....しばらく、会社休んで一緒にいようと思うんだけどさ」
トラウマとかもあるだろうし、1人にさせるのは心配だった。もう少し安心させてやりたい気持ちでいっぱいだった。
「なんだよ.....オマエもう何日か休んでんだろ。大丈夫だ、もう逃げない」
「そうじゃなくて、さ」
ハルカは自分が逃げ出すのを警戒しているのだと思ったらしい。
眉をキュッと寄せて首を横に振る。
「これからこれ以上ないくらい、オマエの人生壊しちまうんだから、少しくらい放置しとけよ」
安心していいとばかりの表情をされて、分かってもらえないだろうなと悟る。
これから壊されるとかはない。
「そんなの、会った瞬間から.....俺はッ」
そうだ、出会った瞬間に俺はハルカについていくと決めてたような気がする。
三つ子の魂なんとやらだ。
「もう、出てったりしねえから.....おい、ライ、すんげえ夕焼け」
指をさされてフロントガラスの端に見える大きな太陽がオレンジにゆらめくのを見やる。
夕焼けって.......。
「あ、朝だし朝焼け、だぞ」
知らなかったという表情を浮かべ、ハルカは軽く息を吐き出し目を細める。
「へえ、そうなんだ。太陽でけえな…...こんなでけえ太陽初めてみた。飲み込まれそうだ」
呟く様子が可愛らしい。
「今日は雨かなァ。雨だから会社を休もう」
朝焼けの後は雨になるという。
綺麗すぎる朝焼けだ、きっと雨になる。
「ッ、ライ。オマエ馬鹿か」
俺はブレーキをかけて路肩に停めると、シートベルトを外してライの肩を掴んで唇を寄せた。
「今日だけ、な」
静かに睨むような三白眼を見つめて、ゆっくりと唇をハルカのそれに落とす。
「.....今日だけ、だぞ」
僅かに唇を開いてハルカは俺の背中に腕を回して、抱き寄せた。
END
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