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第1話

白く細い体。 艶やかな黒髪。 鮮やかな紅い唇。 ……なのに 黒い瞳の奥は、 どことなく絶望を感じる。 藤井凌大(りょうた)。 校内の廊下ですれ違う度に感じる、鼻を擽る甘い香り。 性欲を駆り立てる、特有の匂い。 ……男のくせに。 そう嫌悪しながらも、どことなく仄暗さのある淫靡な色気と、妖しい香りに惹きつけられてしまっている自分がいる。 他の人は、どう感じているんだろうか。 そう思って、藤井とすれ違った生徒の表情を盗み見るものの……特にこれといって変わった様子は見られない。 寧ろ、普通だ。 なら……普通じゃないのは、俺の方か──? 「……あー、藤井くんね。 確かに言われてみれば………うん。あるよ、色気」 セフレ関係である美幸の部屋で、事を済ませた後……俺は、然り気無く藤井の話を持ち掛けた。 が、案の定の返し──美幸の棒読みに、苦笑いを浮かべながら突っ込みを入れる。 「………全然、思ってねぇだろ」 「はは、バレた? ……でもさぁ、確かにイケメンではあるよ」 美幸の言う通り、藤井はよく見ればハンサムな顔立ちをしていて、女子受けしてもオカシクはない。 なのに、彼女がいない上にモテないのは……光るものがないとか、藤井自身に覇気がないという理由だけではない。 『藤井はホモだ』 そういう噂が入学早々に流れ、一日足らずで接点の無い俺の耳にも届いた。 最初に奴を見かけた時は、特に何とも思わなかった。 こいつが噂の……くらいの認識だったと思う。 でも、そうでは無くなったのは……あの日の夜── 「ていうか。藤井ホモ説の噂が流れてるけど…… 私、あいつと同じ中学だったから……知ってんだよね」 そう言って、美幸が何時になく真剣な目を向けてくる。

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