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第2話
美幸を見れば、つい先程まで色欲を掻き立てていたものは消え、すっかり通常モードに切り替わっていた。
寒いのか。掛け布団を肩まで引き上げる美幸を眺めながら……俺はあの日の出来事を思い出していた。
それは、入学して二週間程が経ったある夜──悪友でもある先輩と車で街に繰り出し、駅のロータリーでナンパ待ちの女性二人組を引っ掛けた時の事。
適当に飯を食った後、夜景が見たいという彼女達の希望を叶えるべく、繁華街を離れ山道を上がった所にある大鳥居周辺のラブホ街へと向かった、その途中……
見てしまった。
外灯が殆ど無い、茂みばかりで薄暗い公園の入り口。そこに、頭髪が薄くお腹の突き出た中年男性に手を引かれて入っていく、藤井の姿を。
あけぼの台公園──そこは、夜のデートスポットのひとつで、茂みを抜けた先にある小高い展望台から、眼前に広がる都会の夜景が一望できる場所だ。
気になった俺は、翌日、同じ時刻に公園入り口前まで自転車を走らせた。悪趣味だとは思いながらも。
すると今度は、大学生風の男性と………
藤井がホモだという噂は本当だと、この時初めて確証した。
その証拠にと、携帯で動画も収めて。
『お前、ホモだろ……?』
小馬鹿にした顔つきで、帰り支度をする藤井に言い放つ。
奴は教室の窓際にある自席に座ったまま、机を挟んで立つ俺を見上げた。
虚ろ気な瞳。陽が傾き、窓から射し込む光のせいで、奴の青白い頬が黄昏色に染まっている。
『……見たぜ』
言いながら机をバン、と叩く。
まだこのクラスの生徒が数人残っていたが、俺は容赦しなかった。
『夜、お前が男と手ぇ繋いで、あけぼの台公園でデートしてんの……』
多少の正義感──こいつに近付いたらヤバいぞ、と周りに警告しつつ、優越感に浸りたかったのかもしれない。
だけど……
『……』
あいつは俺を見上げながら、俺など見てはいなかった。
何処か絶望した眼差しで。
あの漆黒な瞳を少し揺らし、力無くフッと口元を緩ませ……僅かに笑みを漏らしただけだった。
「………中学の時、いたんだよ。藤井に彼女」
「──!」
美幸の何気ない一言に、俺は耳を疑った。
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