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第3話
「……え、マジ?」
「マジマジ。……偽装とかじゃなかったよ、あれは」
俺が言い出しそうな事を、美幸が先回りして俺が聞きたい事を口にする。
クルリと体を半回転させ、仰向けからうつ伏せへと体勢を変えながら俺の傍らに近付き、肘を立てた美幸が目を輝かせながら俺を見下ろす。
「今と違って藤井クン、もっとキラッキラしてて、まるで王子様みたいでさ。結構女子人気高かったんだよ。……あれでも」
そう言って、得意気な表情を浮かべてみせる。
美幸の話によれば──藤井には、隠れファンクラブが存在していたらしい。
皆の共有物。平等。故に、勝手に触れたり話し掛ける事は禁止。……という妙な規律があったらしい。
しかし、その存在すら知らなかった藤井は、ある女子に告白をした。
その相手は、奇しくもファンクラブ会員の一人だった。
「……それからが。ヤバくてさ」
ファンクラブ会員──特に、そのリーダー格からの反感を買い、学校生活は一変。
靴を隠される。教科書やノートを破られる。体操着を切り裂かれる。上靴や机の中には、カッターの替え芯が。
トイレで上から水を掛けられ。三段上の階段から突き落とされ。突然、背後から髪を切られ。
……彼女らが思い付く限りの陰湿で悪質な嫌がらせは続き、次第にエスカレートしていった。
「流石に、端から見てても『これ、ヤバいな』って空気にはなってて。……でも、誰も何も言わないし、止める奴もいなくてさ」
給食当番だった彼女が、給食室から教室にスープの入ったバケツを一人で運んでいだ時……一階の渡り廊下で躓き、全員分のそれをぶちまけてしまった事があった。
『詫び入れろよ』
『ほら、這いつくばって舐めろ』
『舐ぁーめぇろ、舐ぁーめぇろっ!!』
ファンクラブ会員数人からの、舐めろコール。
床に四つん這いにさせられ、彼女は嗚咽し涙を流しながら、濡れ広がったそれに顔を近付けた。
まるで犬のように……舌を出して……
『止めろっ!』
その時。
たまたま通りかかった藤井は、その一瞬で、今まで彼女がどんな目に遭ったのかを悟り……
彼女に駆け寄って、抱き上げ……
「ファンクラブ会員達の見てる前で、やったの。……熱いキス」
そう語った後、美幸が横髪を耳裏に掛け、俺の唇を塞ぐ。
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