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第20話
しかし──
その翌日から
藤井は、学校に来なくなった。
公園にも、現れなかった。
あの出来事から二週間。
藤井のいない教室は、全くと言っていい程いつもと変わらない空気を纏っていた。
「じゃあ、ホームルーム始めるぞ」
教卓の前に立つ教師が、教室内をざっと見渡す。
そして始まる出欠確認。しかし、先生の口から『藤井』という名前が飛ばされる。
クラスの奴らも、それに対して何の反応も示さない。
まるで最初から、ここに藤井という人間がいなかったかのように。
「……」
狐につままれた気分の俺は、やがて、幻だったんだと……錯覚するまでになっていた。
公園の茂みでヤりながら見た、あの光景──藤井の背中に生えた、真っ白な翼。根元からもげ落ちたそれは……本物だったんだろうか……
なんて。
そんな馬鹿な事を考え、思い直す。
……それ自体が、夢だったんじゃないか、って……
「……」
……いや、夢なんかじゃねぇ。
確かに俺は、藤井を抱いた。
……この手で、この身体で。
手荒く。酷いやり方をしながら……背面で感じる藤井を快楽へと突き堕として。
その記憶なら、ちゃんとある。
身体の細部に至るまで……俺の中に……
この、手に……
開け放たれた窓から爽やかな風が吹き込み、カーテンを静かに揺らす。
窓際の一番後ろに、ぽつんとある空席。
そこにうっすらと、背中を丸めて外を眺める藤井の姿が、見えたような気がした。
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