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第5話

「ここはガキが来るところじゃねぇんだ!」 「そこをなんとか!」 「帰った帰った!」 人に聞いてやっとの思いで城の横にあった騎士団の兵舎までやってきたが、屈強な門番により門前払いを食らってしまった。 頭が固いのか俺が何を言っても全く聞く耳を持たず、服の襟を掴まれて摘まみ出された。 ダメだ、これじゃあ修行も何も出来ないじゃないか。 ゼロには迷惑掛けたくないからゼロの名前は出さなかった。 騎士団はただの人間でも入れると入団募集の張り紙に書いてあったが、無理そうだった。 他に何処か鍛えられる場所なんてあるのだろうかととぼとぼ歩いて、周りを見ていたら鼻孔をくすぐる美味しそうなにおいが何処からかしていた。 傍を見るとそこは最近オープンしたばかりのお洒落な外観のカフェだった。 ゼロと一緒に街に出かけた時、いつか一緒に行こうと約束していた事を思い出した。 何だか心が折れて寂しくなり、もう帰ろうかなと屋敷に足を向けた。 「エル様?」 「あ、庭師さん」 いきなり名前を呼ばれたからゼロかと焦ってしまったが、声の主を探していたら俺の目の前に庭師がいた。 もしかしてこの人も俺を探していたのだろうか、いろんな人に迷惑掛けてしまったと反省する。 ゼロ優しいからきっと怒ったりはしないんだろうけど、いっそのこと叱りつけてくれたらどんなにいいだろうか。 庭師は俺の手を掴んで「お家に帰りましょう」と微笑んだ。 俺はこくんと小さく頷き、庭師と一緒に屋敷に向かって歩き出した。 そしてその異変にすぐに気が付いて足を止めて庭師を見つめた。 屋敷がある方向とは反対方向を歩いている気がする。 なんでだろう、反対方向だから近道というわけでもなさそうだ。 「俺の家、あっちなんだけど」 「ゼロ様のお屋敷には戻りません」 え?何?なんで?だって家に帰ろうって言っていたではないか。 俺の家はゼロが待ってくれるあの暖かい家だけなんだ。 いきなり庭師は俺の口を押さえつけて、まるで米俵を担ぐように担ぎ出した。 突然の浮いた感覚に怖くてじたばた暴れるが、すぐに人気のない裏路地に入った。 人がいる場所で異変があったらきっと誰かが助けてくれると思っていたが、裏路地なんてほとんど人気がなくて足をばたつかせる事しか出来ない俺にとって絶望的だった。 口で助けを呼べないから、何も事情を知らない人からしたらただ子供が駄々をこねているだけに見えるだろう。 「ご安心下さいエル様、何不自由がない暮らしをお約束致します」 「んー!んん!!」 「聞くところによれば、エル様はゼロ様の実の兄弟ではないそうで…孤児だったと」 庭師は口を吊り上げて嫌な笑みを向けながら話している。 俺が孤児だと知っているのはゼロだけだ、確かこの人は俺が来る前からいた庭師だ。 ゼロは俺のために庭を綺麗にしようとして、庭師に言ってあのバラの花も植えてくれたんだ。 ゼロが俺が孤児だと言いふらすとは思えないから、ゼロが俺を連れて帰ってきたところを見たごく一部の使用人の中の庭師だろう。 自分の身も守れなくて弱いくせに反抗して飛び出して、俺……本当にバカだよな…使用人だからって確認もしないで簡単に信用して…これじゃあゼロが心配するのも無理はない。 もう、会えなくなるのかな…あの優しくて大好きな人に… 「エル様はお屋敷に来てから一度も魔力の波動を感じませんでした、きっとただの人間なのでしょう…大丈夫ですよ…私が大切に育てますから」 「………」 「エル様はゼロ様よりかなり劣った容姿ですが、男を無意識に誘うすべすべの肌に一目で目を奪われ…純真無垢なそのお顔を私色に染めたいと思っていましたよ」 舐めるように俺を見つめる庭師に全身に鳥肌が立った。 なんでこんな変態に好かれてるんだ俺は!絶対嫌だ! 「私のお嫁さんになるんですよ」と鼻息荒く気持ちの悪い事を言っている男に死ぬ以外の危機感を覚える。 早く逃げないと、男としてのなにかを失う気がしてならない! 庭師は体格はひょろひょろしていて筋肉なんてなさそうなのに全然びくともしない。 せめて口の手を外せれば大声を出して誰かが助けてくれるかもしれないと思うが、両手で掴むが全然離れない。 「暴れないで下さい、もうすぐ新居に到着しますから」 「んんんんっ!!!」 「そこで何をしているの?」 誰かの声が後ろから聞こえてきて庭師は足を止めた。 俺からも後ろだから誰が声を掛けたのか分からなくて、見たくても庭師により首が動かせなかった。 庭師は俺を騙した時のように穏やかな顔をして、 声の主に振り返った。 これは俺にとって最後のチャンスだと思って、口から手を離されて大声を出そうとしたら襟元になにかを当てられた。 それは小型のナイフで相手からはナイフが見えない角度で脅されていた、俺からは無機質な冷たさとチクリと少し痛む感覚ですぐに分かった。 騒いだら殺すと無言の圧力を感じて顔が青く血の気が引いていく。 俺と庭師の前にはゼロと同じくらいの年齢の少年が立っていた。 明るい茶髪に美人な容姿の少年だった。 「なにか用かい?坊や」 「俺は騎士見習いのヤマト・ドラグーン、先ほど人拐いがいると通報を受けたんだけど…君?」 さっき俺が暴れていたのを見た人が不審に思って通報してくれたのか。 これで助かる、そう思っていたが庭師が余裕そうに笑っているのが引っかかった。 まるでこうなる事は想定内だったと言わんばかりに、庭師は考えていたシナリオ通りのセリフをヤマトと名乗る騎士見習いに説明していた。 俺と庭師は親子で駄々をこねる俺を叱りつけて家に帰るところだと口からでまかせを言った。 俺はナイフにより発言権を許されていなくて、ただ何も出来ない自分が情けなくてポロポロと泣く事しか出来なかった。 ヤマトは「そうですか、失礼致しました」と頭を下げた。 庭師はまた嫌な笑みを見せて、ヤマトに背を向けた。 俺は最後の希望を失い、絶望した暗い顔をして下を向いて項垂れた。 「それにしても感心しないなぁ」 「…え、っ!?」 「子供にナイフを向けるのはさすがに、ね」 一つ重いため息を吐いた、その場の空気がピリピリと険しくなる。 それは雰囲気ではなく、肌を突き刺す電気だと気付いた。 ヤマトの全身から電流が流れていて遠くから手を振ると、男のナイフを持つ手が痺れて手から滑り、地面に落ちた。 庭師はなにが起きたのか理解していない様子で呻き声だけを口にしていた、痺れていて力が出ないのか拘束している腕が緩みその隙に脱出した。 俺の前にヤマトが庇うように立っていた、庭師を拘束具で縛り上げ終えたヤマトは俺の体を見つめる。 怪我がないか聞いてきて首を横に振ると、ちょっと乱暴に俺の頭を撫でた、その手の感触に助かったとやっと実感が湧き涙が溢れてきた。 「大丈夫?怖い思いをしたね」 「…ふ、ふぇ」 「アイツは俺達騎士団が何とかするからもう安心だよ」 優しい言葉にヤマトにしがみついて、今まで声が出せなかった分いっぱい大声を出して泣いた。 実物のヤマトはカッコいい、ゼロの後継者なだけある。 王立騎士団長ヤマト・ドラグーン、ゼロ同様に乙女ゲームの攻略キャラクターだと説明されていた少年だ。 まさかこんなところで二人目のゲームのキャラクターに会えるとは思わなかった。 この世界の階級、差別、見た事がある街の姿。 そこでずっとゲームの世界なんじゃないかと疑い続けていたが、仮定は確信に変わった。 同じ国で二人もゲームと同じ容姿と名前の奴に会う…ここまで重なれば偶然では片付かないだろう。 袖で涙を拭われる、深呼吸して落ち着いてきた。 庭師はヤマトが呼んだ他の騎士達により連行されていった。 俺はヤマトに送ると言われた、またあんな事になったら不安だからお言葉に甘える事にした。

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