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第11話
※ゼロ視点※
俺はあの時から誰にも必要とされず望まれない子供だった。
両親は俺が生まれた時、確かに喜んでくれたんだ…あの時までは…。
上級魔法使いとして輝かしい人生を送っていた両親はいつも俺を見て怯えていた。
5歳になってすぐに階級を付けられるから医師の魔力診断を受けさせられる。
魔力が満ちている水晶をかざすとその色により自分の属性が写し出される。
俺を写した水晶は青い色に周りがどす黒いなにかが揺れていた。
通常二色が写し出される事はほとんどないが、俺は属性が二つ存在していた。
「……グラディオ様の再来だ」
ポツリと呟いたその医師の言葉を今でもはっきりと覚えている。
グラディオ様とは100年前にこの世界を救った英雄として王都で崇められていた人だ。
でもグラディオ様は罪を犯して命を掛けて守った王都の民に殺された。
グラディオ様には二つの属性が存在していた、全てを焼きつくす炎ともう一つは呪いの力。
今ではグラディオ様の話があるから呪いの力は禁忌だと言われているが当時はグラディオ様しか持っていなかった力だったから誰も危険なものだと知らなかった。
グラディオ様にはとても大切な親友と呼べる少年がいた。
彼は魔力があるのかないのかよく分からない存在だった。
普通の魔力なしは水晶に何も写し出されないただの透明になる。
でも彼の水晶は雪のように真っ白だった、白い色の属性は今現在も存在しないものだった。
だから曖昧だが少年は人間として過ごす事にしていた。
生まれてからずっと魔法が使えなかったからきっと人間だろうと本人も思っていた。
だけど、当時は今よりもっと人間の差別が過激だった。
当然グラディオ様の傍にいる少年をよく思わない魔法使いも多かった。
人間は魔法使いに使われる奴隷だという考えが当たり前だった。
それでもグラディオ様は少年を庇った、人間を奴隷とする世界が間違っていると訴えていた。
そして騎士団長だったグラディオ様が英雄だと後に語り継がれている敵国との戦いに向かっていた。
少年をあの王都に残すのはとても不安だった、しかし…戦場に連れてくるのはもっと危険だろう。
少年はグラディオ様に「大丈夫だから、生きて帰ってさえしてくれれば」と笑っていたそうだ。
グラディオ様は敵国の騎士半数と、相手の騎士団長に勝利して英雄として国民に慕われる存在になった。
英雄という肩書きとかどうでもよくて、ただ一番に親友に報告したかったのだろう。
でも、グラディオ様が帰ってきた王都に親友の姿はなかった。
グラディオ様の祝いをして大盛り上がりの祭の中、必死に彼の姿を探した。
何処にも少年はいなくて、最後に向かったのは騎士団が罪人を処刑する処刑場だった。
ここにきた深い理由はない、ただ…王都を隅々と探したかった…それだけだ。
そこにあったのはつい最近処刑されたのかまだ乾いていない真っ赤な地面に見覚えがあるお守りのネックレスだった。
このネックレスは今若い人の間で流行っているものだった。
自分の魔力をネックレスに込めて大切な人に送ると、その魔力が守ってくれる。
実際はそんな事ないが、信じている人も多いという。
丸いネックレスは込めた魔力の色をしていて、真っ赤に色づいたネックレスを拾う。
この王都で炎属性はグラディオ様だけで、このネックレスはグラディオ様が彼に送ったものだ。
……あぁ、そうか…彼はもう何処にもいないんだなと察した。
ざわざわと魔力が揺れて、感情が脆く不安定なものになる。
魔力が揺れているのは炎の魔力ではない…禍々しくどす黒い力だ。
誰かがグラディオ様に囁く「何もかも殺してしまえ」と…
金色に輝く髪によく似合う碧眼が真っ赤に染まっていく。
「ぐ、グラディオ様…こんなところでいったい何を…」
「………お前がやったのか」
処刑場にやってきた騎士はグラディオ様がいる事に驚いて、後ろめたい事があるのか怯えているようにも感じた。
そしてグラディオ様が手をかざすと、真っ黒な魔力の力が手を覆っていた。
そして触れる事なく、騎士は急に苦しみ出して…動かなくなった。
グラディオ様は王都の英雄、それと同時に反逆者となった。
何人この手を赤く染めただろうか、最初は涙が溢れていた…守ろうとした民を殺す自分は親友を殺した奴らと何も変わらない。
でもいつしか涙も出なくなり、殺人ロボットのように殺戮を繰り返していた。
そしてある日、上級階級の人達が集まりグラディオ様を殺す時が来た。
まともに抵抗されていたらきっと誰も勝てないだろうが、グラディオ様は無抵抗だったそうだ。
何故俺がグラディオ様について詳しいのかは、本人が書いた手記を読んだからだ。
世間に出回る英雄録というグラディオ様の本はいろいろと自分達に都合のいい事しか書かれていなかった。
グラディオ様をたぶらかして王都を支配しようとした人間を処刑した。
しかしもう操られていたグラディオ様は罪のない人々を殺した。
だから仕方なくグラディオ様を殺す事にした、英雄として後世に語り継ぐために…
グラディオ様は罪のない人々を殺していたわけではない、親友を殺したであろう相手の証拠を掴んでターゲットにしていた。
確かにグラディオ様は呪の力に洗脳された部分もあるだろうがそれと少年は全く関係ない。
少年はグラディオ様の話によると人間だとバカにされ虐められていても笑っていたそうだ。
暗い顔をするとグラディオ様が心配するから明るく振る舞っていたそうだ。
人間だから、ただそれだけの理由で彼は死んでしまった。
俺とグラディオ様の共通点は人を殺した呪の力のみ、英雄と同じ力だと喜べないだろう。
だから俺は屋敷の中で軟禁された、外に出ていつ呪の力が目覚めるか分からず両親はいつも怯えていた。
医師が言っていたグラディオ様に興味があり、調べた。
しかし屋敷の本棚にあるのは全て人間を悪者にする内容だった。
まだ幼かった俺でも人間と魔法使いに勝手に階級を付けて人間をバカにするのは可笑しいと思っていた。
そして自分の部屋の片付けをしていたら見知らぬ本が出てきた。
古い本だが読めなくはないと一文字一文字解読して読んだ。
これがグラディオ様の手記だった、そしてそれが俺の家にあるという事はきっとグラディオ様は俺の先祖なのかもしれない。
グラディオ様の真実を知った俺は、グラディオ様と同じ騎士団に入り…この王都を変えたいと思った。
グラディオ様だってきっとそう思っていた筈だ、この王都を回しているのは王ではなく騎士団なんだ。
王はただのお飾りで騎士団の言いなりになっていると病院で患者達が話しているのを聞いた事がある。
それほどまでに騎士団は権力がある、もし騎士団長になれなくても何かしら爪痕を残せたらいいと思っていた。
しかし俺を軟禁している両親が外に出してくれるとは思えなかった。
そんなある日、屋敷中に悲鳴が響き渡り目を開いた。
部屋から出ると、玄関付近で両親が血を流して倒れていた。
すぐに魔導通信機で病院に電話したかったが、この広い屋敷の中…探すのが一苦労だった。
俺が入った部屋で魔導通信機は見た事がないから、入った事がない部屋から調べてやっと見つけた。
病院に運ばれたが両親は即死で助からなかったと告げられた。
両親は裏で悪い事をしていたみたいで、誰かに恨みでも買われたのだろうという結論で終わった。
俺の手元には両親の遺産が残ったが、使用人の給料を払わないといけないし…すぐになくなるだろう。
俺はすぐに騎士団に入る事にした、上級階級だからか呆気なく入れた。
それから雑用の毎日で、たまに魔力のコントロールを教えてもらった。
普通は学校で教えてもらうものだが、俺はすぐに操れるようになった。
同じ歳で、上級階級のヤマトと張り合いながら俺は8歳で大人と同じような力を手に入れた。
まだ呪の力は見ていないからきっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
夜遅くまで仕事をしていて夜道を歩いている時に彼に出会った。
最初は倒れているし、死んでいると思ったがお腹がグーグー鳴っているから腹が減っているのだろう。
最近こういう子供が増えたな、人間だからと親に捨てられてそのまま飢え死にする。
彼も魔力を感じないからきっと人間なのだろう、夜食に買っていたパンをあげる。
するとお腹が限界だったのか、勢いよくパンを食べている。
彼の瞳はとても綺麗で美しくて俺を虜にするのは簡単だった。
彼がほしい、子供ながらに初めて危うい独占欲を感じた。
お腹が満たされて胸の中で眠る彼を見つめてそう思った。
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