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プロローグ

 アパートの扉を開けると、強い風とピンク色の花びらが顔に吹きつけて、思わず目を閉じた。  大通りを挟んだ向かいの公園には、既に満開の桜。風が吹くたびにはらはらと舞い落ちて、夢みたいに綺麗だ。  大学に入って3回目の春休みも、もうすぐ終わってしまう。  スマホの音楽アプリを立ち上げようとして、同じゼミの早坂莉乃(はやさかりの)からメールが来ていることに気付いた。今日は大学で、一緒に課題をやる約束をしてる。 可愛い絵文字つきの『家出たよ』に『わかった』とだけ返してイヤホンを耳に押し込むと、僕は駅への道を急いだ。  空は雲ひとつないほど晴れていて、吹き抜ける風に湿った土と木と花の匂いが混じる。  同じ匂いを、僕は知っている。 ちょうど一年前。 神野と最後に会った日と同じ、春の匂いだ。

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