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まわされた引き締まった腕と体温。
後ろから抱きしめられてるんだと気づくのに時間がかかった。首筋に感じるサラサラとした髪の感触に、顔の温度が上がっていく。
…なんだこれ。何が起こってるんだ?
「ちょ…神野! 離せって」
「いやだ」
「ほんと、まじで冗談やめろ」
「冗談なんかじゃねぇよ」
低い声に言葉を失って、思わず神野を振り返った。驚くくらい顔が近い。切れ長の瞳に、テレビの光が青白く反射するのがよく見えた。
神野は今まで見たことのない、途方にくれたような顔で僕を見つめていた。
形のいい薄めの唇がゆっくりと動く。
「……俺はずっと、ハルのことが」
――あ。だめだ。
それ以上聞くなと、僕の頭が警告する。
もしもその先の言葉を聞いてしまったら。きっともう二度と、僕らは友達には戻れなくなる。
「……こ…の酔っ払い!水持ってくるから横になってろ!」
ありったけの力で神野の腕を振りほどいて立ち上がると、僕は逃げるように部屋を出た。
玄関に向かう短い廊下の横に、シンクとガスコンロだけの簡易キッチンが付いている。よろよろと近づくと、流し台にもたれるように手を付いた。
100メートル全力疾走したように心臓がうるさい。なんなんだよ、あいつ何がしたかったんだよ。…何を、言うつもりだったんだよ。
からみついた腕の感触。体温。掠れた神野の声。
「……っ」
だめだ、とりあえず、水。吊戸棚に置かれたコップに手を伸ばしかけ、指先が震えてることに気付く。
ありえないから。落ち着け僕。だって僕らは……。
蛇口の水を勢いよくコップに注いで一気に飲み干した。少し落ち着きが戻ってきて、自分に言い聞かせる。
きっと酔ってただけだ。……大丈夫。
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