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神野は言い淀むように少し間を置いてから、口を開いた。
「……言ってなかったよな? 俺、昔は人に嫌われんの怖くてさ。はみ出さないように弾かれないようにって周りに合わせて気ぃ遣って笑ってた。けど、だんだん疲れたんだよなー。自分がどんどん無くなってくみたいで、何やってんだろうって」
「……」
テレビを見つめたまま神野は淡々と言葉を紡ぐ。
「たまたま入った古着屋でダストマンズの曲が流れて忘れられなくなった。汚ねー音なのになんか綺麗でさ。店員に教えてもらって、CD買い込んで、親にも友達にも言わないで一人でライブ行ったんだ」
「衝撃だったな。いい大人がなりふりかまわず歌って叫んで吠えて、みっともねーはずなのにめちゃくちゃかっこよくてさ。俺が縛られてたもの全部吹っ飛ばされて、もっと自分に正直になっていいんだって、その時思ったんだよな」
「そっからしたくもない愛想笑いやめて、人に合わせんのもやめた。明るくて優しいアキオくんが好きだった奴らはいなくなったけど、スッキリした」
「……そっか」
「はは。これ話したの、多分ハルが初めてだ」
言葉が見つからなくて黙っていると、肩をどつかれた。
「んな顔すんなよ。気まずいだろ」
「ごめん……うまく言えないけど。神野に会えて良かったなって」
「はぁ!?」
僕も少し酔っていたのかもしれない。鼻の奥がつんとして、自分の感情がよく分からなかった。
僕と神野は正反対だと思ってた。人の目なんか気にしてなくて、自分の気持ちに正直で。
でも神野も同じだったんだ。他人の目と本当の自分の間できっとたくさん苦しんで、今に辿り着いたんだ。
本当だったら誰にも知られたくない心の奥を僕だけに見せてくれた。
そう思うと、胸が溶けていくように温かくなる。
「明るくて優しいアキオくんのままだったら、きっと友達になれてなかったと思う。ワガママでも自己中でも、やっぱり僕は今の神野がいい」
神野は一瞬呆けた顔をして僕を見つめると、焦ったように視線を外した。
「…お前な。結構恥ずかしいこと言ってるの分かってんのか?」
「え、そうかな?」
「そうだよ。バカ」
「もう大学生なんだから神野も人のことバカバカ言うなよ」
「…俺の言うバカは愛情表現だよ」
「あははっ。なんだそれ」
思わず吹き出した僕に、神野もつられたようにふわりと笑顔になった。
昔も今も、何も変わっていない。
これから先もずっと僕らはこんな風に、会うたびに思い出話とか、くだらない話をして笑い合うんだろう。
それは何よりも幸せなことのように思えた。
「…あー…やばい。…限界かも」
ため息まじりの呟きにふと横をみると、神野はベッドを背もたれ代わりに目を閉じていた。思わず酔っ払いめと苦笑する。
「神野、水飲めよ。持ってくるから」
肩を叩いてみたけど反応がない。
勝手に取りにいけばいいかと立ち上がりかけた瞬間、突然肩にからんだ重みにバランスを崩した。
「わっ…」
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