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神野はあんまり酒に強くない。居酒屋で前後不覚になったこともあるし、その時は2人で終電を逃してマンガ喫茶で寝たっけ。 僕はどんなに飲んでも顔に出ない上にテンションも変わらない。本当に、酒が入ってもつまらない人間だと思う。飲み会の介抱役も、もう慣れっこだ。 今日は家だし、神野が酔いつぶれてもその辺に転がしておけばいいかと軽い気持ちだった。 グラスに注がれたのは僕でも名前を知っている割と有名な焼酎で、口をつけるととろっとした甘みと強い香りが広がった。クセがなくて飲みやすいけれど、水割りにしても喉が燃えるように熱くなる。 「あ、大人の味がする」 「はは。酒好きの人に貰ったんだけどさ、俺友達部屋に呼ばねぇし、一人だと飲まないから開ける機会無かったんだよな」 「友達呼ばないって、僕は来てるけど」 「お前は別」  どういう意味なのか聞く前に、神野は「DVD見ようぜ」と上機嫌でディスクをセットしている。 ふと床に置かれたグラスを見ると、もう中身が無くなっていた。 「神野、ペース早くない? 大丈夫?」 「ん? 大丈夫だって」  酔っ払いの常套句を口にすると、神野はおもむろに部屋の電気を消した。 部屋が薄闇につつまれて、閉じられたカーテン越しに街灯の明りが透けて見えた。その光景になんとなく胸がざわりと騒ぐ。 「な、なんで消すんだよ」 「DVD観る時は消す派なんだよ。悪いか」 「悪くないけどさ」 「いいから観ようぜ」  神野は焼酎をつぎ足すと胡坐をかいて画面を見つめている。流れ始めたのはダストマンズのライブ映像だった。 音と記憶は意外に深く結びついているとつくづく思う。曲を聞いただけで、忘れかけていた景色とか思い出が頭の奥から引っ張り出される感覚。 「うっわ、懐かしい。行ったなー、このライブ。もう2年も前なんだ」 「すげー覚えてる。新品のスニーカーおろしたのに帰りにお前にラーメンこぼされた」 「そうだっけ?」 「そうだっけじゃねぇよ」  ふてくされた顔をするのがなんだか可愛く見えて、思わず笑ってしまった。 もしこのバンドに出会わなければ、僕らは今こうして一緒にいることは無かったんだろう。ふと思って神野に聞いてみる。 「神野はどうしてダストマンズを好きになったの」 「……中学の時に初めて聞いてショック受けたから」 「へー」  神野が明るかったっていう中学時代か。何度か聞こうと思ったけれど、触れていいのかずっと迷ってた。

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