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エピローグ

◇◇◇  日はすっかり落ちて、駅前の街灯に灯りがともり始めていた。僕の目の前で、通勤帰りのサラリーマンが大量に改札から吐き出される。  あの電話の後、僕は泣きはらした目のまま大学に行った。春休みで人があまりいなかったのが幸いだった。 早坂さんは随分驚いてたけど、深くは聞かずに濡らしたハンカチで腫れた瞼を冷やしてくれて、その優しさを思ったらまた泣けてきた。  神野は、バイトが終わったら僕の家の最寄り駅まで来てくれることになった。我に返ると泣きながら会いたいなんて電話するなんて、重たい女子みたいで頭を抱えたくなる。  最初に何て言ったらいいんだろう。謝って、それから……。もうそろそろ着く頃で、ひどく落ち着かない。 「ハル!」  懐かしい声に、僕は顔を上げた。見覚えのある茶色の髪に、背の高いその姿。人の流れをすり抜けるように改札を出ると、神野は迷わず僕に歩み寄る。 「……久しぶりだな」 「……うん。久しぶり」  空白を埋める言葉を探すように、神野は僕を見つめた。少しも変っていない切れ長の瞳。目の前にすると、それだけで胸がいっぱいになってしまう。言おうとしていたことは色々あるのに。 やっとの思いで口を開いた。 「神野に話したいことが、たくさんあるんだ」 「文句でも何でも好きなだけ話せよ。…全部、聞いてやるから」 神野はそう言って小さく笑うと、僕を促した。 「その前に飯でも行こうぜ。腹減った」 「……うん」 隣に並んで歩き出す。変わらない横顔に胸の中で『好きだ』って呟いてみた。 神野がふと僕を見る。 「何か言ったか?」 「なんにも」 怪訝な顔をしている神野に、くすぐったいような気持ちで僕は笑いかける。 どこからか風で運ばれてきた桜色の花びらが一瞬頬を掠めて、生ぬるい春の夜に消えていった。 〈おわり〉

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