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第1話

黒衣を纏った背の高い男は、口元を黒い鉄製の面頬で覆っていた。 面頬は口元が大きく開いているが、顔半分隠れているように感じるため、男の表情は読み取りにくい。 男はロウソクを片手に石畳の螺旋階段を降りていく。 塔の中らしく、螺旋階段は下へ下へと渦をまいている。 真っ暗な塔の中で黒い鉄の扉が現れる。 男は懐からジャラリと鉄の鍵を取り出すと、冷たい鍵穴にそっと差し込み、回した。 ガチャリと言う音はさほど大きな音ではないのだが、静寂に打つ水音が大きいように、やけに耳につく。 重たい鉄の扉を開けると、廊下が続いている。ふわりと花の香りが鼻腔を通り抜けた。 男はあまりその香りを嗅がないように面頬を調整し直し、廊下を歩き、金の両開きの扉に行き着いた。 男の仲間達はそこを『祈りの間』と呼び、男と男に許された者しか入ることはできなかった。 また鍵束の中から、金色の花の彫刻を施された鍵を探し出し、扉を開いた。 いっそう強くなった花の甘い香り。 大理石の床の上、部屋の中央には大きな天蓋付きの寝台が置かれ、白いベールのカーテンの奥には二人の影が縺れるように、捻れるように動いている。 カーテンの隙間からは濡れたような音と泣いているような、悦んでいるような弾む声が聞こえる。 その弾む声に合わせて、ベッドは激しく軋む。 男はその声を聞き、満足した。 心の中の笑みが深くなる。愉悦する。震える。 人は言う。 男は神の声を聞く預言者だと。 人は言う。 男は侵略者だと。 どちらも正しくて、どちらも違う。 いや、正直どちらでもいい。 男はカーテンを勢いよく開けると、黒髪の大きな屈強な男が、細身の色白の少年を組み敷きながら、腰を大きく打っている。 少年は涙に濡れながら、男の姿を捉えると、黒衣を細い指で握り、何かを訴えるように睨んだ。 「もう……っいや……止めさせ、て……っあ!お願い……っ」 「嫌などと……女神様は信じるもの達に慈悲をお与えにならなければなりません」 「僕は……、女神なんかじゃ、ないっ!お前なんかに……負けな……ぃ!!……っんぁ!」 強く睨む黄金の髪の美しい王子。 恥辱に塗れ、今や誰の記憶にも残っていない。 取り戻そうとしている帝国は隣国のセオ公国の反逆に合い、あっという間に乗っ取られた。 味方は皆、殺され、この王子一人。 「そのような言葉を吐かれるなんて……お可哀想に貴方の中の悪魔がそうさせるのですね?」 眉根を寄せて、優しく説きながら、黒衣を握っていた細い王子の手首を乱暴に掴みあげる。 「では、また『聖水』を浴びに参りましょう」 王子はビクリと怯えた表情をした。 何度も浴びさせた『聖水』の力を知っているからだ。 「セイブル。ジオ様は聖水のお時間だ。控えなさい」 屈強な男はその命令を素直を聞き入れ、組み敷いていたジオという少年は解放される。 ジオは逃げ出そうと僅かに体を動かそうとするも、激しい愛欲に弄ばれた体は思うように動かない。 「さ、ジオ様、参りましょう」 男をジオの手首や細い首に枷を素早く付けると、引きずるように浴室へ連れていった。

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