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第21話

「ね、お兄さん達もさ、良かったら四人で一緒に愉しまない?」  アイは赤い舌を舐めてからそう誘って来た。  オレはそういう場所に行くほど無謀ではないのでいわゆる「ハッテン場」に足を踏み入れたことはないものの、そこでは相手を替えてとか数人がかりで……とかも有るらしい。 「おお、それは良いな。ずっと見ていただろう?見ているだけで身体が火照るんじゃないか?」  ヒロシという中年男はユキが目当てらしい。 「いえ、僕はリョ……いや、この人以外との行為はしないと決めていますから。  見てたのは謝ります。ただ、素晴らしいテクニックとかアイさんの綺麗さに惹かれてしまって目が離せなかったからで……。その点は済みませんでした」  そもそも店に帰らなければならない身の上だったし、二人の誘いに乗るつもりは毛頭なかったが、ユキの断り文句を聞いてやはりこの子は相当賢いのだろうなと思ってしまう。  誰の気も悪くさせない上に、オレの名前も――どうせ源氏名だが、本名から取っているので特定されたら厄介であることには変わりがない――サラリと言い換えた点とか。 「すみません、少し時間が押していまして」  ペコリと頭を下げて、ユキの細い腕を掴んでその場を後にした。 「アイさんっていう人、演技だね。本当はヒロシという人とあんなことをしたくなかったんじゃないかな?」  それはオレも思っていたが、ユキがどうしてそう思ったのか気になった。 「何故そう思ったんだ?」   ユキの白い顔がネオンの光りで紅く染まっているのが綺麗だった。そして多分下着から太ももへと滴っているモノの違和感を必死で押し隠しているのだろう、細い眉根を寄せている様子もとても綺麗だった。 「ヒロシという小父さんが抜き差しするタイミングじゃないのに声を上げていたことかな。  また、イク時に手で必死に擦っていたでしょ?お尻で感じているとか言っていたけど。  僕もユリさんに聞いたことと、リョウとしかしたことがないけれど、お尻だけでイケてないってことはそんなに感じてなかったと思う。自分の手で気持ち良くなるってそんなの一人ですれば良いコトでしょ」  その程度は――ユキの場合知っていることと知らないことが普通の若者とずれているので把握しづらいがその程度は知っていたらしい。 「いや、慣れてくると、尻と前両方弄らないとイケなくなる身体になるらしいぞ。前だけだと物足りなくなるなって、入れて貰いたくて堪らなくなるとか。そうなった時恋人とかが居ないと何でも突っ込んでしまうらしい」  聞きかじりの知識を披露してみた。 「うーん。それは慣れていないから分からないけれど、アイって人はお尻を満たされていたわけでしょ?リョウは前だけじゃ我慢出来なくなると言っていたけど、お尻に入っているから順番が逆じゃない?」  ユキが明晰な口調と艶っぽいため息を交互に零している。多分可愛いピンクの穴からタラタラと零れているモノのせいだろうが。  それはそうと、お店にはシオリお姉さまが待っているから帰らないといけないし、お金も欲しいんだけど――」  オレが感心して聞いていると、ユキが我に返ったように言った。  今頃、集団心理だか群集心理だかで店の中は大変なことになっているに違いない。  女王様然として冷然と座ってヘンリーⅣを水のように、すいっと呑んでいた詩織莉さんだって巻き込まれているかも知れない。  オレも――嫌々だが――抱こうと思えば女性も行ける。そういう人間も一定数居る上に、あの若さと美貌だ。無理やりということも考えられる。 「シオリお姉さまなら大丈夫だよ。あの人に指一本触ろうとしたらユウジとか司会者とかが黙っていない。それこそ有り金を全部取られて、全裸で放り出される位のことはするよ」  詩織莉さんが単なる――というと語弊があるが――伝説的女優だけではない顔があるらしい。  まさしく君臨する女王様のような感じで。 「そうか……。それなら良いが」  ユキが細い眉根を寄せて真剣そうな透明な眼差しで見上げて来た。 「シオリお姉さまのこと好きなの……かな?あんなに綺麗な人だもんね……」  話すほど紡ぐ言葉が小さくなっていくのが物凄く可愛い。 「好きか嫌いかで言ったら好きだ」  ユキが華奢な身体が萎むほどの大きなため息をついていた。その様子も物凄く可愛い。それこそ、あんな店に戻らずにオレの家に連れ帰ってベッドで可愛がりたいくらいに。 「しかし、それは彼女がオレの上客で、しかも定期的に店に来てくれて会話を楽しんでくれたり、ああいう刺激的なショーに『店外デート』に誘ってくれたりするからだ。  オレの太客の一人で、しかも彼女が来店してくれると、バカ騒ぎが得意な一派とかお客様をわざと邪険に扱って――それでそのお客様に「特別感」を与えるというやり方だな。ま、そういう小手先のテクニックも認めるがオレ個人としては好きではない。そういうホストを冷然と突き放すところとかが『好き』だな。  それに、オレはこんな商売をしているが男の方が好きだし」  けばけばしいネオンに照らされたユキの顔がパッと紅く輝いたような気がした。 「そうなんだ?  迷惑じゃなければリョウのことを色々聞きたいんだけれど、それはショーが終わってからで良い?  今はさ、さっきのカップルの行為を見て、あんなんじゃショーにならないなって考えていたとこなんだ」  この適応力と頭の切り替えの早いところなどにも驚かされた。もちろん良い意味で。 「どういう点が?」

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