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制裁が出会い1
悠馬は一瞬、これは夢かと疑った。こんなに好みの人に出会ったことは、今まで生きてきた人生のなかで一度もなかったからだ。
彼の眼前に立ちはだかったのは、小柄な体躯に細い手足、小さな顔にレイヤーミディアムヘアの黒髪を持つ少年。人形作家でもおよそ描けないだろうすっとした眉毛の下には、つり目がちの大きな瞳があり、長いまつ毛は天を向いていた。そして何より悠馬の視線を釘づけにしたのは、生意気そうな唇だった。にたりと口角が上がったそれからは、毒々しい赤い舌が覗いて見えた。
「ずいぶん桐生様となれなれしく話してたな」
ああ、声も綺麗だ。彼──氷雨の発声は冷ややかで、周りの誰が聞いても嫌悪感たっぷりだったというのに、悠馬はうっとりと聞きほれてしまった。
「聞いてんの」
「聞いてます」
間髪をいれずに答えた悠馬に、氷雨は怪訝そうに眉をよせた。それを見て悠馬ははっと我にかえり、素早く身をかがめた。驚く氷雨と他のギャラリーを横目に、悠馬は地べたに手をつき頭を下げた。土下座の体勢だった。
「このたびは調子に乗った行動をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。親衛隊長ならびに親衛隊の皆さんにはとても不快な思いをさせてしまい、わたくし佐野悠馬は大変反省しております」
「口だけでなら何とでも言えるよな」
悠馬は背中にずしり、重みと強い痛みを感じた。氷雨が悠馬の背中に片足を置いて踏みつけたからだ。周囲のどこからか小さな悲鳴が上がり、悠馬は大きく息を吐いた。ギャラリーの同情するような視線とは裏腹に、悠馬の息には感嘆の意がこもっていた。
「ほん、とうに……申し訳、ございません。それで、その、こんなわたくしですが」
声を震わせる悠馬の態度に、氷雨の怒りはいささか落ち着いたようだった。いまだ悠馬に足を置いていたが、力をゆるめて乗せるだけにしていた。悠馬はそんな氷雨に、心なしか残念そうにまぶたを伏せた。
「こんなわたくしですが、この親衛隊に入隊させていただけませんでしょうか」
続いた悠馬の申し出に、誰もが口をつぐんだ。
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