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城崎大空
僕は、城崎 大空 が好きだった。
バイクで登校する所とか。白金の髪色とか。鋭い目付きとか。纏う空気やオーラとか。
何処からどう見ても不良そのもので、近付き難くて怖いなって思ってたけど……
「みうって、……お前か!」
高校一年の春。
入学式が終わり、校庭の桜が殆ど散って若葉色の葉ばかりになった頃──
未だに学校生活にもクラスにも馴染めず、孤立気味だった僕に、気さくに声を掛けてくれたのが……大空だった。
「……え」
「てっきり『女』だと思ってたからさ」
どうやら大空は、クラス全員の授業ノートを返すよう、先生に頼まれていたらしい。
「……お前……よく見ると、可愛いな……」
ノートを渡しながら、まじまじと僕の顔を覗き込む。
その距離の近さにドキッとする。
「男にしとくの、勿体ねぇ感じ」
色素の薄い瞳。
光を取り込んで綺麗に輝くその瞳が、真っ直ぐ僕を捕らえて離さない。
上手く言葉を返せずにいれば、緩く口の両端を持ち上げ、白い歯を覗かせ──目を見開いたままの僕の前髪に手を伸ばし、くしゃくしゃっと柔く掻き混ぜる。
細くて、綺麗な指──
──ドクンッ
何だろう、この感じ。
嬉しいような、酷く懐かしいような……
ただ、それだけなのに。
胸の奥が擽ったくなって、心がキュッと切なく締め付けられてしまう。
「……」
こんなに簡単に、人は恋に落ちてしまうものなんだろうか。
急に触れられたから。
『可愛い』って言われたから。
間近で、目が合ったから。
色んな理由を並べ立ててみるけど、勘違いだと言い聞かせるには不十分で。
この胸の高鳴りが、心の震えが、そんな単純なものじゃないって……何となく気付いてしまった。
……それでも。
誰かに悟られる前に、この気持ちを打ち消そうとするものの、一度心の中に棲み着いてしまった大空の存在は、日に日に大きくなっていくばかりで……
「……」
この想いを、誰かに話したい。
聞いて貰いたい。
ただ……それだけの為に。
僕は、ゲイ専用の出会い系サイトに登録した。
〈こんばんは!!〉
ここに登録している人の大半は、カラダが目的。
見た目の特徴とタチネコで検索を掛け、出てきたプロフィール写真から気に入った人をピックアップし、メッセージを送る。
送られた相手は、メッセージと写真から判断し、返事をして会う約束を交わす。
……そんな中、僕は『ミキ』さんという人と出会い、このサイト上で楽しくやり取りを続けている。
ミキさんは、決して下品で卑猥な言葉を使わない。
真面目に僕の話を聞いてくれるし、言葉遣いも対応も丁寧で、とにかく優しくて。とても好感の持てる人だった。
《今日のアメくんは、随分とご機嫌みたいだね》
ネット世界での僕は、″実雨″の″雨″から取って『アメ』と名乗っている。
〈はい。聞いて下さい。
今日、ソラにギュッてされたんです!〉
そう打ち込みながら、顔が熱くなっていくのを感じた。
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