34 / 112

溺れる

……はぁ、はぁ…… 息が、苦しい…… 空気中の湿気が肺に取り込まれる度に、溺れたようにもがく。 顎を天に突き上げ、片手を高く伸ばし、遙か彼方にある水面を求め…… 僕は、息継ぎをした── 「………実雨……みう……っ、はぁ……」 腿の上に跨がった僕の腰を掴み、浮き上がろうとする僕を底へと引き戻す。 その度に下から突き上げられ……淫らに揺さぶられる身体。 ……苦しい。 汗ばんだ、剥き出しの柔肌──その胸元に這われる熱い舌。 硬く膨らんだ小さな尖りを探し当てられれば、甘い果実を貪るかのように甘噛みされ、舌先で何度も舐られる。 「……はぁ、ハァ、……みう……!」 ──ズンッ 奥深くに打ち込まれる、大きく反り返った楔。 僕を、この水の底に縛りつけるつもりなんだろう…… 腰を掴む手が僕の背中へとまわり、ぶるぶると快感に震えながら僕を捕らえ……離さない。 ──はぁ、はぁ、はぁ、 苦しそうな息づかい。 お互いの汗が混ざり合い、肌が触れ合う程に濡れて……… 「……ヤベぇ……も、イく……っ、」 「………ん、…」 飽和状態の中。 息が苦しくて。溺れそうで。 何度も何度も……水面を求めて背を反らし、顎を突き上げる…… 「……ぁあっ、」 身体なら、あげる。 ……だから、心までは───どうか……奪わないで。 「──みぅ……っ、!!」 激しい律動の末に、放たれる欲望。 沈められる身体。 痛みを感じながら、空っぽになっていく心。 「……」 その全てを手放して…… 大空のもとへ……飛んでいけたら………いい、のに………… 「ほら……」 ぼんやりとする僕の目の前に現れたのは、ペットボトルのミネラルウォーター。 それを受け取り、視界に映る腕を目で辿りながら視線を上げる。 大空が亡くなって。樹さんと別れて。 放心状態だった僕を支えてくれたのが、今、目の前にいる──今井だった。 裸のままミネラルウォーターをがぶ飲みする今井は、首に掛かったスポーツタオルで、汗で濡れた額や首元を雑に拭う。 「……」 ………どうして、こうなっちゃったんだろう……… ミーンミンミン…… 全開の窓から容赦なく入り込んでくる、蝉の声響。 僕の体をも(つんざ)き、思考回路をどんどん奪って麻痺させていく…… 一糸纏わぬ姿のまま、床にぺたんと尻をつき、ペットボトルを握り締め……また、俯く。 顎先に伝っていく、じっとりした汗。 「……実雨」 穏やかな声が隣で聞こえ、ハッとして顔を上げれば……傍らに腰を下ろし、床に片手を付いた今井の唇が、すぐそこまで迫っていて。 「もう一回、……しようぜ」 「………」 熱情を孕む瞳。 耳元に掛かる、熱い吐息。 抵抗なく受け入れれば、掴まれた肩をゆっくりと押し倒され、再び硬い床に背中を押し付けられる。 ──重ねる唇。 今井の舌が、僕の咥内をいやらしく舐った。

ともだちにシェアしよう!