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…俺と、付き合え

……あ…… 汗で湿った肌の上を、今井の舌が這う。 汚い……から…… そう思って今井の肩を摑んで押し返すも、簡単にその手首を掴まれ、引き剥がされてしまう。 「……今更、抵抗すんなよ」 そう囁かれた後、まだ芯を持ったままの乳首を食まれ、歯を柔く立てられる。 * バイク事故の時、大空が大事そうに持っていたという形見の指輪は──ジュエリーショップで大空が買った、あの指輪だった。 数人のクラスメイトが、お線香を上げに大空の家へ行った時──『きっと、貴女へのプレゼントだったのかもしれないわね……』と、大空の母親から佐藤さんへ、その指輪が渡されたのだという。 キラリと光る、彼女の左手薬指。それが視界に入る度、ズキン…と胸が痛み、苦しくて。 堪えられなくて── ──もう、限界だった。 「……ありゃ、ねぇよな」 終業式が終わり、帰り支度をする僕に、そう今井が話し掛けた。 ……ジー、ジー、ジー、 じっとしていても、汗ばむ教室内。 全開の窓から容赦なく入り込む、やけに煩い蝉の鳴き声。 僕を置いてけぼりにしたまま、通り過ぎようとしていく、大空との季節── 「………え」 「佐藤の事だよ」 「……」 何て答えたらいいのか、解らない。 心情を含んだ言葉を、例えその切れ端でも言ってしまったら……ギリギリに保っているこの心が、壊れてしまいそうで…… 「……」 苦しい。 悲しくて、淋しくて、辛い…… それ以外の言葉が、見つからない。 ──でも、佐藤さんは悪くない。 大空の事故は、色んな偶然が重なったもので、誰が悪い訳じゃない。 それに……失った辛さなら、きっと同じ…… 僕だけじゃない。 解ってる。 そう、頭では解ってるけど…… 大空の全てを持ってる佐藤さんが、羨ましい。 ……僕には、何も無いから。 指輪も。肌を重ねた温もりも。 恋人としての、思い出も……… 「おい、大丈夫か?」 「……」 暑さのせいか。 一瞬、視界が大きく揺れて暗転する。じりじりと頭が痺れながら、視界に色が戻っていき──映し出されたのは、上履きを履いた僕と今井の足元。 ジー、ジー、ジー、ジー……、 「………うん」 ゆっくりと視線を上げれば、鋭い目付きの今井が僕をじっと見据えていた。 「こんな時に言うの、卑怯かもしれねぇけど。……やっぱ、言うわ」 ガタイのいい今井が、体に似合わず小さな声でボソボソと呟く。後頭部を掻きながら、キョロキョロと辺りを見回すと、僕の二の腕をひっ掴んで乱暴に引っ張り、耳元に唇を寄せる。 「………俺と、付き合え」 唐突な台詞。真っ白になる脳内。 幻聴……かと、思った。 その言葉をどう受け止めていいのか解らなくて、じっと今井を見つめる。 「大事にしてやる」 「……」 「俺が実雨を、支えてやるから」 「………、うん」 まだ、人が疎らに残る教室。 大空のいないぼっちの僕と、特に接点のない今井が、親密な距離で話しているのを見られたら、どう思われるだろう…… そんな事を頭の片隅で思いながらも、もう、何もかもどうでも良くて。 目の前に差し伸べられた手を、条件反射のように──掴んでいた。

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