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止まった世界

××× 夕飯の仕度をし、テーブルに二人分のオムライスを置く。 添え物には野菜サラダ。インスタントのコーンスープ。 「……」 少し前に部屋の前で父を呼んだけど、いつも通り返事はない。 父は昔から自分の世界を愛し、自分の世界に生きている。いつまでも目を背け続ける父に愛想を尽かした母は、まだ6()だった僕を置いて出て行った。 それでも──父は変わらない。 父子家庭になってからも、相変わらず僕との間に壁を作り……家族のように接する事なんて、ない。 思春期前は、父に振り向いて欲しくて。色んな話を振ってみたり、寄り添ってみたりしたけど……疎ましく思っていたんだろう。冷たく突き放し、僕を遠ざけた。 だからもう、今はこんな他人みたいなドライな関係でいいと思ってる。 今更家族になろうなんて言われても、困る。 「……」 父は、何も知らない。 僕の同級生が、バイク事故で亡くなった事も。その相手を僕が、想っていた事も。その父親と、身体の関係を結んだ事も── 自室に戻り布団に身を預けた後、ポケットから携帯を取り出す。 久しぶりに開く、出会い系サイト。樹さんとのプライベート空間を覗けば、終業式の夜に書き込んだコメントが残っていた。 〈こんばんは〉 あの日を最後に、ここの世界が止まっている。 樹さんのアカウントは……まだ残ったままなのに。 『さよなら』──あの時言われた台詞は、この関係全てを断ち切るという意味だって事くらい、解ってる。 だから、ここに書き込むのがルール違反だって事も。返事が来ない事も……解ってる。 それでも。 樹さんとの関係が、まだ首の皮一枚繋がっている状況に、酷くホッとしていた。 〈こんばんは、ミキさん。 僕ね、彼氏ができたんだよ。 見た目は厳つくて、目付きも怖い感じで。最初はちょっと苦手だなって思ってたんだけど、案外優しい所もあって。 ソラの事で、色々親切にしてくれたから。 だからね。終業式の後、告白された時……いいかなって〉 そう打ち込んだ後、送信ボタンをタップしようとして、親指が躊躇う。 瞬間。酷い動悸と眩暈が、僕を襲った。

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