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させろ
一瞬──何が起きたのか、解らなかった。
肩を強く掴まれ、乱暴に引き寄せられたと思ったら──強引に重ねられる、唇。
「──、!」
ねっとりとした、熱を持つ舌が咥内に侵入し、最初から激しくナカを掻き回す。
上手いとか下手とか、そういうのは良く解らないけど……、でも……必死で僕の舌を追い掛け、求めて絡み付く様子に、余裕のなさだけは伝わった。
「……初めてじゃ、ねぇんだろ……」
「………、!」
一度緩く離され、鼻先の距離で今井が囁く。氷のように酷く冷めた瞳。それが細く吊り上がり、僕の心に容赦なく突き刺す。
答える間もなく、再び重ねられる唇。
強引に差し込まれる舌。
今井の咥内から舌を伝って流れ込んでくる、生温かな唾液。
咥内が溢れ、息継ぎができない程に、溺れて……
──確かに、初めてじゃ……ない。
けど……だからって、こんなの………
「──ゃ、」
やっとの思いでキスから逃れ、首を竦めながら声を絞り出す。
だけど、消え入る位か細くて……
「ヤらせろ──」
酷く、冷たい声。
熱情を孕みつつも、その瞳は鋭く吊り上がり──何をそんなに怒っているのか、全然解らない。
喉元を片手で掴まれ、手荒に後ろに倒される。その上を今井が跨がり、獲物を捕らえた獣のように、上からじっと僕を見下ろす。
「……」
……なん、で……
視界が、揺れる。
その中でフラッシュバックし、映し出される──過去の今井。
みんなの前で、僕の胸を揉む手。差し出されたハンドタオル。終業式の後──僕に告白した、真剣な瞳。
『……大事に、する』
あの言葉は………嘘、だったの……?
「今更、勿体ぶんじゃねぇよ──!」
裾を乱暴に捲られ、露わになった肌。
そこに、今井の指先が這う。
「……」
視界に映る、自室の天井。
ゆっくりと身体を起こし、携帯を持ったまま布団から下りる。
部屋を出てリビングへと向かえば、そこに残る手付かずの夕食。
もう、冷めているんだろう。コーンスープからは湯気が消えていた。
「……」
いつもと同じ。
何にも変わった事なんてない。
だけど、ヤケに胸がざわついて……僕の心を落ち着かせてくれない。
足早にテーブルへと近付き、オムライスの皿を取り上げる。
いつもならラップをかけておくけど……そんな気持ちには到底なれなかった。
ごみ箱の蓋を開け、皿ごと投げ捨てる。直ぐに蓋をし、その場に崩れ、ぺたんと尻餅をつく。
「……」
息が、苦しい。
胸に手を当てれば、酷い動悸に襲われていた事に気付く。
………はぁ、はぁ、はぁ、……
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