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好き

「だけど、昨日──実雨が僕を見つけて、声を掛けてくれた時は、本当に驚いた。 実雨が天使のように見えて……夢でも見ているのかと思ったよ」 「……」 ……それは……僕も、だよ…… 喫茶店のガラス越しに、樹さんの姿を見かけた時は、信じられなくて。 奇跡が起きたとしか、思えなくて。 「君をこの手で抱き締めた時、堪らなく愛おしさが込み上げてきて…… 不思議と、運命みたいなものを感じたんだ」 「──!」 ドクンッ…… 樹さんが、僕の目の前に立つ。 その表情は、先程まであった憂いがすっかり消え──優しさの中に、熱く滾る二つの瞳が、真っ直ぐ僕を捕らえて離さない。 溢れる涙をそのままに、真っ直ぐ樹さんを見上げれば……彼の長い指が、スッと寄せられ…… 「何より君が、変わらず僕を慕ってくれていた事が……嬉しかった」 涙で濡れた僕の頬に、そっと触れる。 ……優しくて……温かい手── 「好きだよ、実雨」 樹さんの──穏やかで、甘く……蕩けてしまいそうな声。 光が射したように、目の前がぱぁっと明るくなり、樹さんの全てがキラキラと輝いて見えて。 ………樹、さん…… 昂った感情が身体中を駆け巡り、熱い涙となって次々と零れ……樹さんの綺麗な瞳に映り込む。 その涙を、指先でそっと絡め取り、優しく僕に微笑んでくれる。 大空に、良く似た表情で…… あの日、大空に言えなかった言葉──嘘をつき、本音を隠してしまった後悔が思い出され、胸がキュッと締め付けられる。 もう……あんな思いはしたくない。 ちゃんと、言葉で伝えたい── 「………僕も、す………」 ふわっ…… 意を決し、口を開いた途端──樹さんが僕を優しく抱き締める。 その瞬間に包まれる、樹さんの匂い。 樹さんの、温もり。 手のひらが僕の後頭部を抱え、樹さんの肩口へと押し込められる。 「──もう、逃げたりしない。 ずっと、傍にいるよ」 「……うん」 身体が、心が、声が………震える。 夢ならどうか、このまま醒めないで……… 誰もいない教室── 降りしきる雨の見える、窓際の片隅で。 想いを確かめ合うように、抱き合った後…… 隠れるように そっと、唇を重ねた。

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