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守りたかったもの

「………昨日。あの後、彼──今井くんにもう一度会って、言われたんだ。 『半端に優しくするだけなら、もう二度と会うな。実雨の全てを引き受ける覚悟があるなら、迎えに行け』……って」 ───え…… 胸の奥が、ズクンと痛む。 鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなり、目の縁に溜まった涙がぽろっ、と零れ落ちる。 「……初めて会った時から、……いや、その前から、実雨を可愛いと思っていた。──だけど、君は大空が好きで、僕は只の聞き役でしかなかったから……この気持ちは不浄なもので、封印しなくてはいけないと思ってた」 「……」 「大人として。実雨の未来を考えれば……離れる事が、最善な道だと思った。 その時は苦しくても、きっと僕の事なんてすぐに忘れる。……僕も、いつかきっと、君を思い出にする事ができる。……そう、思った。 だから、恋人が出来たというメッセージが送られてきた時、これで良かったんだと納得したよ。でもその反面──想像以上に、ショックだった」 目を伏せた樹さんの表情に憂いが帯び、辛そうに歪む。 「──学生時代の時とは違う。 諦めて、忘れて、無かったものには出来なかった。 ……この手が、この身体が………実雨の温もりを覚えてしまったから」 「………」 あの日──初めて樹さんと会った時の光景が思い出される。 動機は不純なものだったけど……初めての僕に、優しくしてくれて…… その優しさが、あの時の僕を支えてくれて── 「返事を出すか、凄く迷ったよ。 もし、再び繫がりを持ってしまったら……また僕は、聞き役に徹する事になるから。 自分を押し殺し、それに耐えられる自信が………持てなかったんだ」 「……」 「そのうち、唯一の繫がりであるコミュニティが消えているのに気付いて……酷く後悔した。 君を避ける事で、本当に守ろうとしていたものは、一体何だったのか………酷く思い知らされたよ。 何もかもを失ってから気付いたって……もう遅いんだ、って……」 一歩ずつ……樹さんが、僕との距離を詰めていく。

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