109 / 112

大空…!?

薄瞼を通して感じる、柔らかな太陽の光。 瞼をゆっくりと持ち上げれば、パアッと辺りが開け、とても明るく爽やかな青空が目に飛び込む。 「………着いたよ」 「……」 声のする方へと視線を向ければ、そこには少し呆れたように微笑む樹さんが。 「……また、大空の夢でも見た?」 「………え……」 微睡む脳内に、ぼんやりと浮かんだのは、夢に出てきたお兄さん……… ──大空(そら)……!? ぱちんと瞼が全て上がり、一気に目が冴える。 ……そうだ、大空だ── 僕が、放課後の教室に居残っていた時に現れた……大空の幻影と、同じ姿…… 「……」 ──でも。 小さい頃の記憶なんて、とても曖昧で不確かなもので。 確かにあの時──母に置いて行かれて泣いていた僕に、近所に住んでいたんだろうお兄さんが、優しく声を掛けてくれた記憶がぼんやり残っている。 だけど、その人の顔も、声も、交わした会話も……ハッキリとなんて、覚えてない…… ……だから、もしかしたら…… 大空の事を考えていたせいで、幼い頃に声を掛けてくれたお兄さんと、教室で会った大空の幻影との記憶が、勝手に結び付いて……自分でも気付かないうちに、心の奥底で思い描いていた願望が、夢となって現れたのかもしれない── 「………うん。凄く、不思議な夢」 でも、もし…… こんな非科学的な事なんて、あるのか解らないけど…… ……もし本当に、あの時の大空が、時空を越えて、幼い僕の所へ飛んでいったのだとしたら── 『一生懸命追い掛けて来てくれて、……「大好き」って叫んでくれたしな』 ──あの時の言葉は、ちゃんと大空に届いていたのかもしれない…… 「………」 そう思ったら、胸の奥が熱くなり…… そこにそっと仕舞っておいた、大空への想いが……ゆっくりと溶けていくような気がした。

ともだちにシェアしよう!