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元気でね2

「あの、……密かに想ってた人とは……その後、どうなったんですか?」 僕の質問に、樹さんの顔色がサッと変わる。さっきまであった優しい笑顔は消え、何処か憂いを帯びた瞳が──ここではない遠くへと彷徨う。 「……離れていったよ。気持ちを悟られる事もないまま。 最後に会った時、もし気持ちを打ち明けていたら、少しは違っていたのかなって……今でもたまに思うよ」 「今でも、その人の事………好き、なんですか?」 「………うん。そうだね」 「……」 キッパリとそう言い切られ、心の奥がズクン…と抉られる。 「だから……初めて実雨に会った時、かなり動揺したよ。 ……あの時の彼に、見た目も雰囲気も……似ていたから」 「………僕も……です。樹さんが、大空に似てて……」 「……だから、僕に抱かれたんだよね」 樹さんが、少し意地悪な事を口にする。 だから、僕も…… 「樹さんも、僕をその人に重ねた……んですよね」 そう返すと、樹さんが寂しそうな苦笑いを見せた。 「………うん。お互いさま……だったね」 樹さんの手がスッと伸び、僕の頭をくしゃりと撫でる。 それから頬に触れ、憂いを帯びながらも蕩けた瞳を僕に寄越し──親指の腹で僕の唇に触れ……名残惜しむように、ゆっくりと横に引く。 「元気でね」 「……」 樹さんは、大人だ。 ここで、さよならしようとしてる。 ……いやだ、そんなの…… ツキン……と、胸の奥が痛む。 「……はい。樹さんも」 本当は、全てを割り切って受け入れられる程……僕は強くもないし、大人でもない。 もし樹さんが、大空とは全く関係のない人だったら……? 背徳行為だと感じる事もなく。 ……この優しい温もりに、甘えようとしたかもしれない。

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