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夜の始まり
地獄のような毎日だった。きっかけは何だったのか分からない。ただただ、毎日が苦しくて堪らなかった。
頭の中を支配するのは、様々な人間の笑い声と多くの視線だ。ぎゅっと目を閉じても暗闇に目が浮かんでいる。吐き気が込み上げ、涙がぼたぼたと流れて止まらない。
この終わりのない地獄がいつ終わるのか分からず、和歌田流星はただ一人、学校のトイレの個室に籠ってもがき苦しんだ。
ようやく涙が止まってトイレから出て、ふらふらとした足取りで教室に向かうも、周り中が流星を見て噂し、嘲笑っているような気がしてきて、そうに違いないと思って、再びとてつもない恐怖に襲われた。
やめてくれ、やめてくれ、誰か助けてくれ、お願いだから。
声にならない悲鳴を何度も上げ、頭を抱えながらしゃがみ込み、再び大粒の涙を流していた。
とても授業に出られる状況ではなかったのだが、なんとか一日を終えて学校から帰る時間になった。不思議なもので、学校から離れ、人ごみがなくなっていくに連れて、謎の恐怖感や不安感は収まっていった。
しかし、それが毎日のように繰り返されるうち、食欲も次第に落ちていき、家族に当たり散らすようになった。一日の内に怒り狂うのと涙に暮れるのを何度も繰り返し、独り言が増え、自分でも情緒不安定だと思いつつあった。
そんな中で、自然と友人や付き合っていた恋人は離れていってしまい、孤独に苛まれた。母は流星の異変に気が付いたのか、こう言った。
「流星、病院に行きましょう」
流星はそれを聞くと、まるでご褒美でももらえたように高揚した気分になって頷いた。自分でもおかしいと思い始めてはいたのだが、調べ尽して原因を見つけてみろよという妙に上から目線な気分になっていたのだ。
そして、母に連れられて病院に行った流星は、診察を受けると、病名を知らされる前に入院する流れとなり、それと同時に学校は退学することに決めた。
休学でも良かったのだろうが、流星は学校に対する異様な反発心を抱いていて、あんな所にはいられない、辞めてやると決め込んでしまった。
そして、入院生活が始まったのだが、やがて自分が入院したのは精神病棟だということを知る。投薬治療や他の患者と接し、治療のために学校の授業のようなカリキュラムで作業療法を受けるうちに、ようやく苦しみから解放されつつあった流星に、医者は病名を告げた。
「統合失調症の疑いがあります」
と。
それを隣で聞いていた母は、その後いろいろと医学書を読み漁り、知ったような口調でこう言った。
「統合失調症はいろいろなライフイベントのストレスで起こりやすいって。恋愛や結婚で再発することもあるらしいわ。もう流星は、恋愛はしない方がいいんじゃない?」
その言葉で再び絶望に突き落とされながらも、流星は心に誓った。
自分はもう障害者なのだから、普通の人とは違うのだ。だから、もう普通の幸せは望めないのだ。だから、もう二度と恋愛はしない。と。
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