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第6話 泥の花は太陽に焦がれる
興奮冷めやらぬまま自宅に戻ると、ちょうど母さんが家を出るところだった。
「お帰り。早かったわね」
「うん、ただいま」
ワインレッドの少し綻びたスーツを着て、綺麗に化粧をした母さんが鏡台で両耳のピアスを付けながら振り返る。
「お友達のプロテストどうだった?」
「合格したよ。一発KOだったって、会長が言ってた」
「すごいじゃない! そのうちテレビに出るようになるのかしらねぇ」
まだC級に合格しただけで、お茶の間で見られるほどの試合となればタイトル戦だろうし、まだまだ先のことだと思うのだが、きっとそうなる日が来ると思う。そんな先のことを考えると、僕はその隣に自分が居ないだろうことを嘆き始めてしまうから、今日は何も考えないでいよう。薙沢にも言われたし。
「あの、今日その友達が家に来るから」
「えっ、嘘! 母さんたあ君の分のご飯しか用意してないわよ? どうしよう、たあ君が友達家に連れてくるなんてレアな日に仕事だし!」
喜んでくれているのは嬉しいが、仕事だから呼んだんだけど、とは言えない。あと、本当は友達じゃなくて彼氏だよ、あと多分これから処女喪失します、とも言えない。
「大丈夫、合格祝いで焼肉食べて来るらしいから要らないよ」
「あっ、そうなの? 良かった! 泊まっていってもいいからゆっくりしていってもらいなさいね。で、母さんが朝帰ったら紹介して!」
「うん、分かった。仕事頑張ってね」
赤いハイヒールを履いて玄関を出ていく母を見送り、静かになった部屋で独り「よし」と気合いを入れる。そして自室のアダルトグッズとDVDの保管場所になっている鍵付きの引き出しから、昨日買ったローション、コンドームを取り出した。
ローションとゴムをちゃぶ台の上に置いて、お風呂場に向かう。身体を入念に洗って浴槽に浸かり身体をよく暖めてから、玩具で自慰する時にもやっているシャワー浣腸に取り掛かった。昨夜から食べ物には注意してきたから、今朝も快調だったし余り汚れていないだろう。汚物の一つも着かないようにしなければといつも以上に気を遣う。洗浄を終えて、適度にマッサージをして解しておいた。
風呂を出た後、新しい下着と部屋着に着替えて待つ。まだ一時間半くらいしか経っていない。しばらく来ないだろうが、落ち着かないので部屋をうろうろしていたら、鏡台に映る自分を見てこれでいいのかと思ってしまった。
相手はノンケだし、このいかにも男っていう格好の僕に欲情などするのだろうか。いや、まず薙沢は僕が求めてくるから応じてやろうという優しさで、今晩の約束をしたのではないだろうか。そうだとすると、僕がこのいかにも男という格好で待ち構えていた時点でやる気が失せる可能性がある。薙沢はノーマルなんだから、途中まで女の振りをする方がノってきてくれるのでは。
ちらとすぐ側のタンスを見遣る。母さんの下着とネグリジェを拝借してはどうか、と悪魔が囁く。
悪魔の声に従い、僕は母さんの服の入ったタンスの引き出しを開け、いくつかの下着を取り出した。母さんが赤が好きなのもあって目ぼしい下着がいくつかある。これに着替えて待っていたら、薙沢は喜ぶかもしれない。男の僕にも欲情してくれるかもしれない。
服を脱ごうとしていたら、ピンポンと呼び鈴が鳴って反射的に玄関のドアを開いた。
「……よう」
目の前に立っている恋人の顔をまじまじと見て、自分がまだ準備できていないことに気づいて焦ってドアを閉めようとする。
「何すんだよ! また余計なこと考えてやがったな!」
悪質なセールスマン宜しく足をドアに挟んで無理矢理こじ開けられてしまう。
「上がるぞ」
と、靴を脱いですぐの居間に転がっている女物の下着を見て薙沢の顔が強張った。
「ど、どれがいいか見てたんだ! ごめん、片付ける!」
「……お前そういう趣味もあんのか?」
「いや、薙沢は女装した男相手の方が抵抗ないかなって思って」
取り出したことがバレないように一応畳みながらタンスに仕舞っていると、後ろで大きな溜息が聞こえてくる。
「あのな、俺はキヨに一目惚れしたって言っただろ。その時のお前、どういう格好だったか覚えてるか?」
その言葉にはっとする。高校の、ブレザーの、男の制服、だ。
「自覚がないから言うけどな、お前本当綺麗な顔してるんだぜ。色白いし、人形みてえな」
近づく薙沢の手が僕の顔を包み込み、そっと触れるだけの口づけを交わす。
「ああ、やっぱ今日はやめとくべきだった」
「え……」
と、急に僕の頭の後ろに手を回し力任せに引き寄せると、唇を押し付けられた。そして驚いて固く引き結んでいる唇を割って舌が入ってくる。
こんな風に求められたことはない。乱暴なキスも僕のマゾヒズムを刺激し、興奮が一気に高まるのが分かった。
舌を絡ませながら、深く貪るように唇を重ねる。息を吐く暇もなく、脳に充分な酸素が行き渡らないせいか頭がぼうっとしてきて、ただ目の前の唇と舌と唾液を求めた。身体に力が入らない。いつ膝から崩れ落ちても可笑しくないほどで、僕は堪らず薙沢の腕を掴んだ。
薙沢の空いている方の手が動き、僕のスウェットのトレーナーの中に下から肌を這うように入ってくる。やはりノンケだから、尻や股間から触ったりはしないんだなあと感想めいたことを思ったのも束の間、胸の突起に薙沢の指先が触れ、びくと身体が震えた。
「あ、っ……」
唇が離れ、薙沢は乳頭を捏ね回すように愛撫しながら、僕の顔を覗き込むように見る。ああ、僕の女みたいに喘ぐ醜い顔をそんな近くでまじまじと見詰めるなんて酷い、と悦びに一層身体が感じた。
「男でも感じるんだな」
「っ、ん……胸ばっかりや、だ……ぁ……」
下半身が疼いて我慢できない。この耐えている状態もなかなか気持ち良いのだが、直接的な刺激にはやはり敵わないのだ。
「……あー、今更だけど、俺したことねえから、上手くできるかわかんねえぞ」
それは僕が相手で良いのだろうかと思う気持ちと、嬉しいと思う気持ちが混ざり合う。
「僕も、初めてだし……薙沢になら、何されても気持ち良い、よ」
ただこうやって触れ合っているだけでも、暴力を受けた時とは違う快感が身体を満たしていた。
「それ、使って良いんだよな?」
見事にセックス待ってましたと言わんばかりにちゃぶ台の上に並べられているローションとゴムを指差す。それにこくこくと玩具の人形のように首を縦に振って答えるのが精一杯だった。
「お前の部屋行くぞ」
と、その二つのグッズを手に取ると、僕の手を引いて襖を開けて隣の部屋に入る。ベッドと本棚、タンスしかない六畳間だ。ここでできることなんて、数えるほどしかない。
「ある程度は調べたから、分かったつもりでいるんだけどな」
半分薙沢に誘導される形でベッドの上に座る。心臓がはち切れんばかりに脈動して耳障りなほどだ。
向かい合わせになって、薙沢は着ていた長袖Tシャツを脱ぎ、鍛え上げられた上半身を露わにする。その身体を見ているだけで、どうにかなってしまいそうだ。
「お前も脱げよ」
トレーナーを軽く摘み上げられて慌てて自分で脱ぐ。じっと僕の身体を見るので、また同情でもされているのかと不安になった。
「本当に色白いな、お前」
薙沢の手が僕の髪、頬に触れる。そして真っ直ぐに向けられた視線にぞくっとする。あのボクシングをしている時の、闘争心を剥き出しにした刺すような眼に似ていた。
「やっぱり、殴り合った後は気が立って良くねえわ」
突然肩を掴んでそのまま体重を掛けられて真後ろに倒れた。
「殴り足りない時は、特に」
僕の上に覆い被さる薙沢の、澄んでいるのに低い声と瞳の奥にある激しい輝きに、僕の醜い本性が打ち震える。僕の芯がひくついて、もっと快感を、と欲していた。
「薙沢……身体が、熱い……苦しい……」
早く、もっと、と刺激を求めている。身体が火照り、疼き、熱い息を吐き出しながら薙沢に懇願するように視線を送った。
「ああ、確かに……だいぶ窮屈そうだな」
視線が僕の下腹部に向けられ、薙沢が僕のズボンに手を掛ける。ああ、もし僕の下半身を見て萎えられたら、やっぱり違ったと思われたらと考えてしまって、身を固くした。
が、下着ごと一気に引き下ろされ、醜態が彼の眼前に晒される。ズボンをベッドの下に放りながら、薙沢が悪戯っぽく笑った。
「パンツが漏らしたのかってぐらい濡れてんぞ。まだ触ってもねえのに」
もっと蔑んで、もっと酷い言葉で罵って。薙沢の口から加虐的な言葉が飛び出す度に、僕の感情とは関係なく異常性癖が表に出てきて僕の思考を支配しようとする。その時、僕がマゾヒズムを表に出すと薙沢が引いてしまって、キスさえもお預けになってしまったことを思い出した。
「あっ……」
ぴくんと熱い芯が反応する。下の方を見ると薙沢の指が僕の竿の先端に指で触れていた。ゆっくりと離れていく指に、粘っこい透明な液体が糸を引く。
「すげえエロいな、お前」
熱い吐息を吐き出しながら僕の両足を掴んで、脚を開かせる。この痴態を見て、罵声を浴びせて、叩いて蹴って殴ってなぶってくれ。
そう、皮膚の下の柔らかい肉の内側から叫んでいた。
薙沢が物珍しそうにローションを手に取る。完全に尻穴用のアダルト商品なので、見たことのない物だからだろう。キャップを外し自分の指に軽く垂らした。そこでこれから薙沢がしようとしていることに気づいて、慌てて身を乗り出す。
「ぼ、僕が自分で解すから、薙沢は何も……!」
「俺がしたいんだから良いだろ」
ぐいと脚を持ち上げられ、後孔が晒される。そこに薙沢がローションを垂らし、冷たさにびくと身体が震えた。
「痛かったら言えよ」
その言葉の後、窪みに触れる感触、そして指先が入ったのが分かる。
「ん、ぁ……」
「結構狭い、な……大丈夫か?」
いつも自分でする時なら初っ端から指二本くらい余裕で入るのに、緊張しているせいか締まっているようだ。
深呼吸を数度繰り返すと、孔が弛んでいく、と同時にゆっくりと指が中に挿入ってきて、気付くと根本までくわえ込んでいた。ゆっくり出し入れしながら内壁をなぞるように指を動かす。
違う、乱暴に、物を扱うみたいに、手酷く扱って。爪で引っ掻いて傷付けて。
焦れったさを覚えた身体が余計に熱を発して苦しくなった。
「ぅ、ん……薙沢、もう……良い、から……」
「いいわけねえだろ。まだ拡がってねえのに挿入るわけねえだろうが」
またローションを指につけ直して二本目の指が挿入される。腹部の違和感と圧迫感が増した。僕より薙沢の方が指が太いというのは確かだが、明らかに今日は身体が可笑しい。
「っ……も、やだ……ぁ……」
拡げるように中で蠢く指に、びくびくと身体を震わせながら、薙沢の愛撫に耐える。
君の男根で無理矢理押し拡げて、自分の快楽のための道具として、肉奴隷として、ぞんざいに扱って欲しい。僕の快感なんて無視して、ただ苦痛を味わわせて欲しい。それが僕の快感なのだから。
「なぎ、さわ……お願い、もっ……欲しい……っ」
耐えきれなくなって思わずすがるように媚びた声を上げる。と、薙沢の表情が変わり喉が絞められたかのように息が詰まった。
「俺はお前を傷付けたくねえ。キヨがマゾだとしても関係ねえ。負担掛けさせるような真似はしねえ」
僕の本性を垣間見て引かれたのだと思った。きっともう嫌になったに違いない。ぬるりと指が引き抜かれるのを感じて、胸の真ん中がじくじくと痛んだ。
「……そう思ってたんだけどな」
と、言葉を切り身体を起こすと、薙沢は自分のズボンを下着ごと下ろした。呆然としている僕の視線の先には、自分の竿の二倍はありそうな太く長い雄が屹立していて、これから身体に受け入れる瞬間のことを考えて期待に打ち震える。
薙沢はコンドームの外装フィルムを取り、箱の中から一つゴムを取り出した。袋を破り、ゴムを竿に装着してその上からローションを垂らして濡らす。一度見た時の感じから大きいというのは分かっていたから、Lサイズを買ってきたのだが、それでも窮屈そうだった。
だとしたら、僕が今まで使用していたディルドよりも大きいということになる。
「俺も限界だわ」
背筋がぞくぞくして、腹の奥の方が疼いた。薙沢が僕の両足の膝裏を掴んで開かせ、腿の間に身体を割り込ませる。茎の先端が搾まりに当たり、びくと身体が反応する。
「痛かったら、すぐ抜くからな」
「あぁっ……!」
自分の中に割って挿入ってくる太い杭に身体が弓なりに大きく反り、快感が一気に押し寄せるのが分かった。
「キヨ、今少しイったな。中が急に締まった」
生理的な涙で目の前が霞んでよく見えない。薙沢が、この醜態を今どんな顔で見ているのか、分からなくて、怖い。
「っあ、ん……ぅ、あ……っ」
薙沢が腰を揺らす度に喘ぎ声が漏れる。
ああ、薙沢に嫌われる。挿入れられただけで達するような淫乱で女々しい奴なんて、嫌に決まっている。
僕は自分の口を手の甲で塞ぎもう一方の手で顔を隠した。
「ふ……ん、ぅ……」
薙沢の律動が激しくなるのを感じて、僕のマゾヒズムが表面に表れようとする。もっと激しく突いて、痛くして、奥まで貫いて、そして壊して。
涙が溢れる。醜い顔も見えず喘ぎも聞こえなければ、薙沢はきっと萎えることなく最後までできるだろう。
「キヨ……どうして泣いてる?」
一月前と同じ台詞を顔を隠す僕の腕を退かしながら、優しい声音で言う。涙でぐしゃぐしゃの汚い僕の顔をもっと見て、と思う僕と嫌だ、お願いだから見ないで、と思う僕がそこにいた。
「……薙沢のこと、好き、なのに……酷くして欲しいって、思うんだ……本当に、好きなのにっ……」
滅茶苦茶に凌辱されたいと思う歪んだ性癖が、薙沢の僕を大切にしてくれようとする気持ちを踏みにじっている。それが辛くて、嫌で、嫌で、仕方なかった。
僕の恋心はこの性癖の前では薄汚い布切れと同じだ。愛や恋の前に、悦楽を求めてしまう。
真っ直ぐで純粋な想いは、相手に届く前に湾曲し泥にまみれ、真っ黒に汚されて、始まりにあった真っ白な想いの一欠片も残らないのだ。
どうして、僕はこんな、醜い魂を持って生まれてきたんだろう。
「お前は、俺以外の誰かに虐められたいと思うか?」
僕は嗚咽が漏れそうになって堪えながら、ただ首を横に振った。薙沢の手が僕の頬を包み込む。
「じゃあお前にとって俺は特別ってことだろ? 俺はそれで充分嬉しいけどな」
その時ようやく気付いた。僕は薙沢だけに、罵声を浴びせられ暴力を振るわれ汚されたいと思う。
もう、彼以外の誰にも求めなくなったその歪んだ性欲は、その深層に沈んで見えなくなった薙沢への澄みきった透明の純情が産み出したものだということを。
薙沢が僕に優しく口付けると、子供のように破顔した。その温かさにまた涙が溢れそうになって、薙沢の背に腕を回し抱き付く。
と、その衝撃でバランスを崩して薙沢が前屈みに倒れ込み、挿入されたままの杭が最奥まで突き立てられた。
「っ、あぁ……!」
目の前で何かが炸裂したかのように、一瞬で頭が真っ白になる。そして、全身を突き抜けていく快感に身体ががくがくと震えた。
「はぁ……キヨまたイったな……すげえ、締まってる……」
恍惚としながら、耳元で荒い呼吸を繰り返し囁く愛しい人の言葉に、そして中で大きくなる肉棒に、ぴくんと身体が反応する。
……彼を、気持ち良くさせたい。達したばかりで力があまり入らなかったが、脚を持ち上げると彼の腰に絡める。かなり深い位置で身体が固定される。
「薙沢……僕で、イって……」
ふっと笑うような、切るような息が合図のように、薙沢が腰を激しく揺さぶり始める。
「ひ、あぁっ、ん……やっ、あ」
喘ぎ声が止まらない。下半身は馬鹿になったかのように痙攣して、半勃ちの竿の先からは、だらだらと精液混じりの液体が溢れ出ている。
「キヨ……も、出す……ぞ」
「あ、ん……なぎ、さわっ……!」
激しい律動が止まり、最奥の壁に突き当たるほど穿つ。と同時に、薙沢が僕を強く抱き締めながら短く息を切った。中で薙沢の雄がびくと震える。
僕の上に脱力してのしかかる恋人の重み、温かな身体、速い拍子で鳴る心臓の音。
胸の奥から湧き出るようなこの感情を「愛しい」と言うのだろう。そしてこの温かさを、「幸福」と呼ぶのだろう。
「……キヨ」
その声に顔を薙沢の方へ横に向けると、突っ伏したままで僕の額に軽くキスをして、
「これが愛ってやつなんだろうな。好き過ぎてやべえわ……」
そえ呟いた薙沢の耳が、首筋が赤く染まっているのを見て、思わず微笑んだ。
どんどんと襖を叩く音に目を覚ます。隣には安らかな寝息を立てて眠る愛しい顔がある。その幸せな時に浸る間もなく、騒がしい音に邪魔をされる。
「たぁくん、入るわよー?」
聞き慣れた人物の声とその意味に気付いた時には、目の前の襖が開け放たれ、仕事が終わり帰ってきたのだろう母と目が合う。
そして裸の僕と隣に眠る薙沢を交互に見た。終わった、と頭が真っ白になる。
「ははっ、やっぱり友達じゃなくて恋人だったのねぇ」
笑う母の顔に、引きつった顔のまま硬直していると、薙沢が小さく唸りながら目を覚ました。
「どうして分かったのかって思ってるだろうけど、そんなの簡単よ。たぁくんの、その子のことを話す時の目が、恋心できらきらしてたから」
身体を起こした薙沢が、「おはよう。忠清の母です」と微笑む母さんに、絶句して固まった時の表情は怖いものなど何も無さそうな彼がもう二度と見せないだろうと思うほどのものだった。
それを見て声を上げて笑った僕に、薙沢は一瞬ムッとした顔になったが、ついには釣られて笑い出した。母はそんな僕らを目を丸くして首を傾げて見ていた。
ああ、この曇りなき青春の恋よ、どうかこのまま、純白の美しい花を咲かせて、そして永遠に枯れないでいて。僕はいつまでも目の前の太陽のような笑顔を真っ直ぐに見つめていたいから。
泥の沼の真ん中でも、真っ白の花弁を見付けてもらえるように。
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