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第11話 夢じゃない

 シャワーから戻ってきた大谷は、光の用意した服にきちんと袖を通しており、そっと光がさしだした水を飲んでもまだぼんやりとしていた。 「三澄さん、服とか色々ありがとうございます」 「いえいえ。……あの、それでですね大谷さん、今夜はもう遅いし俺の部屋に泊まってもいいんですけど、ベッドが一つしかないんですよ」 「はい」 「いっ……しょに、寝ますか……?」 「はい」 (返事はやっ!)  光は、大谷がシャワーを浴びたことで『帰る』もしくは『床で寝ます』と言うのを少し期待していた。  本当に言われたらショックなのだが、心のどこかでほっとする。  なのに大谷は、迷わずに光と一緒に寝る、と答えた。 (そうか、まだ酔ってるんだな……大谷さん) 「じゃあ……もう遅いし、寝ましょうか」 「はい」 「俺電気消すので、先にベッド入っててください」  光は大谷に背を向けたが、ぎしっと揺れるベッドの音で大谷が横になったことを確認した。  部屋の電気を消して、自分もベッドに向かう。 (あ、今度は俺の場所、手前かな……)  大谷が壁側に寄っていたので、光はうんしょ、と手前からベッドに乗った。  その途端。 《グイッ》 「えっ? うわぁっ!」  すごい力で腕を引っ張られ、ベッドに吸い込まれた。いったい何が起こったんだと閉じていた目をあけたら、自分の上に大谷が乗っていた。 「……えっ」 「三澄さん」 「えっ、なに? 大谷さん、どうし……」 「三澄さん……」 「んっ」  大谷の顔がゆっくりと近づいてきて光の視界いっぱいに広がり、その動きは止まることなく、ぷちゅ、と唇に柔らかい感触がした。 (うそ……俺、いま、大谷さんにキスされてる? え、これってもしかして夢? 夢にしては感触がリアルだな?) 「ン、チュ、ふぅ……っ」  角度を変えながらしつこく繰り返されるキスに、光は一切抵抗しなかった。夢か現実かを確かめていたのだ。  そうしているうちにいつのまにか光は大谷にきつく抱きしめられ、二人でベッドに横になった状態ではむはむと唇を合わせていた。 (本当に夢……? いや、これ夢じゃない!) 「おっ、おーたにさ、ンッ」  声を上げようとしたが、ほんの少し口を開けた瞬間に、待っていたとばかりに大谷のぶ厚い舌が、ぬるりと蛇のように光の口内に入り込んできた。 「んっんっ! レルッ、チュパッ、あふっ、おーたにさ、待っ……んぶっ、んんん!」  何も言葉にならない。  酒が入っているせいで、頭が回らない。    酔って誰かと勘違いされているのだろうか?  抱きしめているのが女じゃないと分かったら、大谷はキスをやめるのだろうか?  でも大谷は、たしかにキスをする前『三澄さん』と光の名を呼んだ。  相手が光だと分かったうえでキスをしているのだ。 (そんなの、俺……拒めるわけ、ないじゃん)  されるがままだった光だが、突如自分からも大谷の舌を追いかけて舌を絡め、吸いついた。  大谷の太い首に腕を回して抱きついたら、大谷は一瞬ハッとしてキスを止めたが、光は構わずに自分から積極的に唇を寄せにいく。 「三澄さん、いいんですか」  酔っているとは思えないハッキリとした口調で、大谷が光に聞いた。 (酔ってるのは、俺の方なのかも……)  光はぼんやりとそう思いながら、 「大谷さん……抱いて、ください」  薄闇の中でも肉食獣のようにギラギラと光っている大谷の目をじっと見つめて、言った。

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