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第15話 置き手紙
次の日、光が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
全身筋肉痛と二日酔いで、頭も身体も下半身も全部が痛くてすぐには起き上がれない。
(大谷さん、いないのか……)
ベッドにもいないが、部屋のどこかにいる気配もないので帰ったのだろう。
光はしばらくベッドの中でもだもだしていたが、やがてむっくりと身体を起こした。
ベッドから足を降ろすと、ローテーブルに手紙が置いてあることに気付いた。
三澄さんへ
昨日は調子に乗って好き勝手してしまい申し訳ございません。
合わす顔がないので帰ります。
中のものはすべて掻きだしておきました。あと、勝手に洗濯もしました。
朝食も作ってますので、嫌じゃなければ食べてください。
本当にすみませんでした。 大谷
「なんじゃこりゃ……」
掻きだした、というのは精液のことだろう。昨日――というか明け方まで、何度もしつこく中出しされたことは鮮明に記憶している。
洗濯をしてくれたのはとてもありがたいし、わざわざ朝食まで作ってくれたなんて感動すら覚える。嫌なわけがない。
それなのに。
「すみませんって……なんだよ」
昨日のことは、抱く相手は誰でもよかったはずの大谷と、好奇心込みで一度だけでも大谷に抱いてもらった自分で対等な関係のはずだ。
謝ってもらう筋合いなんかどこにもない。
なのに謝罪なんかされたら、光が遊ばれたようではないか。
(まあ、かなり激しくされたと思うから、それに対しての謝罪って思えばいいのかな……別に嫌じゃなかったけど)
ツッコみたいことは多々あるが、幸い昨日は二人とも酔っぱらっていた。
なので、一夜の間違いとして処理するべきだろう。
(うん、とりあえずラインで気にしてないって伝えよう。これで関係がギクシャクして、今度こそ病院を辞めるって言いだしたらシャレになんないし)
光は善は急げ、とばかりに大谷にその旨を伝えた。
(あーあ、せっかくの休みなのになんもできないや)
腰も痛いが、何故か胸の奥が締め付けられるようにズキズキと痛い。
自分がこんな悲惨なめにあっているというのに、何故大谷はそばにいてくれないのだろう。
謝るなら謝るで、直接顔を見て謝ってくれたらいいのに。
(いや、そこまでする義理はないけどさ。俺達はあくまで遊びの関係なんだから。……俺が傷付くのも、おかしな話だよな)
光は大谷の手紙を胸に抱き締めて、もう一度ベッドに横になった。
*
次の日、朝一番にロッカーで大谷に会った光は、何もなかったような顔で挨拶をした。
大谷は一瞬何かを言いたそうに眉を顰めたが、普通に挨拶し返してくれた。
(そういえば大谷さん、仕事中でも俺のこと名前で呼びたいとか言ってたな……、まあその場のノリというか、ただの冗談なんだろうけど)
――そう思っていた矢先。
「光さん」
「えっ……えっ?」
朝の日勤業務の準備中、詰所のド真ん中で、大谷が光を真顔で見つめて言った。
「光さんともっと仲良くなりたいので、これからは下の名前で呼んでもいいですか?」
「え……あ……いいです、けど」
「じゃあ、呼びます」
(びっ……くり、した。他のスタッフもいるところで、急に名前で呼ぶなんて……)
案の定、聞いていた他の女性スタッフ達がまたやいのやいの言っていたが、驚きすぎて光の耳には入ってこなかった。
しばらくドキドキがおさまらなかったが、若い男性介護士の青木に『下の名前で呼ぶとか、なんか刑事ドラマの相方みたいっすね』と色気のないことを言われ、真顔に戻った光だった。
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